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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


2008年6月号 京都の暑い夏2008ドキュメント

               新しい扉 〜感覚の再構築で覚醒へ〜

                                     レポーター:町田佳代子
                                     写真:山分将司

Contact/Partnering D-1/D-2 4/4(金)〜4/6(日) 全5回/全3日
[概要] コンタクト基礎講座。様々な個性を持った「他者の身体」を聴き、身体が生み出すムーブメントを通じて理解を深めていくことを重視します。ここではいわゆるダンステクニックは必要ありません。「他者」とふれる中で、身体のセンセーション、相互の身体をリスペクトすること、そしていかにコミュニケーションをとっていくかということに焦点をあてていきます。五感、六感総動員でトライ!!





 
  坂本公成+森裕子(日本/京都)ダンスカンパニー Monochrome Circus主宰。身体を通じた『対話』をテーマに種々の企画やWSと作品創作に取り組んでいる。コンタクトインプロヴィゼーションには10年以上取り組み、二人ならではの緻密な分析と絶妙な間合いは好評。カンパニーの作品は17ケ国27都市で紹介される。身体と身体の対話という「リアリティー」、想像力と創造力の交差という「フィクショナリティー」、そのどちらもが交錯する<場>として、広く深く「コンタクト」を追求している。今年はアンジェ国立振付センターとのコラボレーション『怪物』プロジェクトや、『坂本公成掌編ダンス集』全7編を連続上演などの企画を展開予定。坂本は'00年度京都市若手芸術家奨励制度奨励者。(提供:京都の暑い夏/Photo:清水俊洋)
 
 

 
 このワークショップ(以下WS)で私が経験した事を一言で表すならば、まさに“新しい感覚世界の体験″に他ならない。未知の世界に対する知的好奇心は人一倍貪欲であると自負していても、未開分野の扉の前に立つと、その前をウロウロと彷徨った挙句ドアを叩く事さえ迷ったり、ノックだけして終わったり、様子を伺いすぎては疲れたり、はたまた思い切って一歩を踏み出した所で引き返してみたり。いつも自分のキャパシティやバックグラウンドがしっかり邪魔をして、好奇心や興味だけでは未開拓地への到達が遠く険しい道のりであった私にとって、それはどれ程ファンタスティックでエキサイティングな出来事であった事か! ダンスどころか「身体を動かす」という項目が日常生活動作以外ではほとんど組み込まれていない生活を送っている私にとって、このWSは後日襲ってくる筋肉痛は勿論の事、いかに自分が肉体的にも精神的にも身体を使って生きていなかったかという事実を痛感させられる経験でもあった。
 まずは体慣らしのウォーミングアップから、既に自分の身体を意識したトピックスを用いて行っていく。講師である裕子さんと公成さんの言葉を、耳で受け取り、視覚で追って、頭が理解する前に動かす! 体を動かす! 勿論自分の体は思う様に動かない。普段の運動量を思えば「ああどうしよう!?」やら「どうしたらできる様に……」なんて焦りより「まあ当然といえば当然……」と半ば諦め、自分を納得させながら落ち込む暇もなくワークは本髄へ。ランダムにペアを組み相手の体に触れる。この段階では相手も自分も私の中でまだ“体“である。体と共に場の空気が温まっていく事を手助けに“体“から“身体″へ。“触れる“から“触る“へ。そして意識する。感じる。そしてとにかく触る! 触る! 触る! コンタクトしている部分を感じて、相手を感じて、自分を感じる。できるだけ使っていない部位を意識して次のポイントを決める、自分だけが動く、相手だけが動く、目を閉じて行う、等の展開を持って常にコンタクトポイントを移動していく。そして何度もペアを入れ替える。のべつまくなしに誰かれ構わず触る。ワークの初めには顔を見ながら名前を呼び合い紹介し合っているとはいえ、「はじめまして」も「この人ってどんな人?」と思う隙も無く、異性か同性かどんな骨格か考える間も無く、触って、感じて、意識する。最初に触感が来るのである。そして認識。
 “視覚や聴覚、言葉のやり取りを介して相手を自分の中で捉えていく”という私達の……、私の日常生活の中で主となってきた他者とのコミュニケーション、他者へのそして自己への認識形態がそこで一気に崩れる。それが私の経験した新しい感覚だった。
 

 
 相手とコンタクトする事で触覚を更に深く覚醒させ、「ああ人間の身体って、自分の身体って、こんな風にできていたんだ……こんなつくりをしていたんだ……」その新しい出会いと体験の感動に酔いしれる暇も無くワークは続いていく。
 お互いに向かい合い掌を合わせてそこを接点に自分を相手に任せる。相手を受け取る。相手を受け入れて自分も預ける時、思わず懸念して躊躇すること自体を受け入れなければならない。どちらが強く作用してもバランスを崩す。相手をよく観て、聴いて、感じて、信頼する。ただただ預けるのである。自分も、相手も。相手の信頼を感じると自分の身体のこわばりも緩んでいく。相手を信じるという事は自分を信じるという事。緊張したり、固くなりながらも、躊躇してしまう自分ごと受け入れる事が出来たら相手を受け入れる事が出来る。この関係性はどちらが先に来るのか。相手や状況によって異なるのだろうが、頭では理解していたり、そうありたいと願っていてもなかなか出来ない事なので私達は日常生活の中で苦悩と悶絶を味わい七転八倒しているのではないか。それをWSという異空間では例え疑似体験だとしても、ものの1、2時間で可能にしてしまう。その体験は、他者との円滑なコミュニケーションや自己形成において、かなり有益な手段として私達の生活に反映できるのではないだろうか。(固い!)
 そして深い! 深いなぁ〜、この考察……。なんて自我自賛ではなく、このWSって本当にそれほど深いんです。バイカル湖ほど深いんです。ありがとう裕子さん! ありがとう公成さん! ありがとう〜コンタクトインプロヴィゼーション! 私の中の触覚の再構築。と思ったワークショップなのでした。
 

 
 

 

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