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 お客さんとの14年来のお付き合いがあるんですけど、それに安心したらあかんのやと思っています。だからといって広告を出せばいいっていうのも違っていて、僕ができることはCD一枚ごとに精一杯の誠意を込めること、そして無理矢理こっちを向かそうとさせないことです。変な話やけど女の子と付き合うのと一緒で、無理矢理がちがちに固めてしまったら反発して行ってしまうんです(笑)。でも近くにいてほしい。僕とお客さんとの適度な距離感をどうやったら保っていけるか、が重要なポイントです。 
 例えば、卸屋を介さない流通ルートの構築。できるだけお客さんの近くにいたいんで、お客さんの方に直接情報流して買いに店に行ってもらいます。お客さんが店に「澤野商品が欲しいねんけどあるか」って言うてきてくれます。その次にお店からウチのとこへ「商品無いか」って言うて返ってきます。そういう輪がすごく近くに感じられるルートで、できるだけ短い線で返ってくる形を考えています。
 一方卸屋さんを通すと、人件費も発送費も節約できるから楽に決まってるんですよ。でも卸屋さん入れたらお客さんの反応とか情報とかっていうのが卸屋で止まってしまいます。卸屋さんは商品欲しいから僕んとこ来るんやけどそういう流れは嫌いなんです。理想型を言えば、本店一軒でものが全部売れたらええなと思ってるくらいで(笑)。できるだけ小さく、小さくなりたい。そうなったらもっとお客さんに近い距離感でいれると思うんです。ひょっとすると商売の基本は本店が一軒あって、そこで商売できたらそれが一番ええのかも知れないです。だってウチの商品買いに、ウチのところへ来てもらったら、お客さんと直接話せるし、いろんな情報伝えることができるのに、小売りや卸屋を通すのもったいないでしょ。まあそれは情報発信ってことから考えたらあり得ない話なんですけどね。でも理想型は自分のところで全部売れたらええなと思います。だから今もお客さんには直接ウチに来てもらったり、そのちょっと変形でダイレクトに直接小売り店へ卸して、その店からお客さんの声を吸い上げている状況です。

 あともう一つ、卸屋を通さない理由があるんです。ウチの作った商品に興味持ってくれたお客さんに「この商品はなんで作るんや?」って聞かれた時に「これはこういった意味で作ってるから売ります。」或いは「これは作ることに意義があります。」ってダイレクトに伝えたい時があるんです。大手のところやったらそんな商品ありえないんやけど、必ずしも甘いもの作って数売るだけが商売じゃなくて、澤野がこれを作った、ていう足跡を残さないといけない商品っていうのが絶対あるんですよ。「これは売れませんから少なく卸して下さい。」っていう商品があるんです。
 例えば「ドリームトーク」っていうドイツのミュージシャンの30年前のレコードを世界初で復刻CD化したことがあるんですけど、たまたまそのミュージシャンと話していたら「この間、あのレコードマスターテープが見つかったんです。」って言うたんです。そこで僕が「え、マスターテープ?それで復刻CD作らせてくれませんか」って言うたら、「いいよ」って(笑)。そのミュージシャンが30年前出したのはそれのコピーで出てるから、マスターテープのほうが値うちあるのは決まってますから。鮮度の高いテープが見つかったんやからこれは売れなくてもいいから出そうっていうことで。その音っていうのは僕らが60年代に聴いた時はごっつうハードな演奏で、ごっついきついなあ、って思っていました。それでもその音っていうのはジャズ史においてはすごく重要なポジションの音なんです。30年前に聴いたらなんと先鋭的やな、ハードなジャズやな、って思ってまして。今聴いたら「なんや今のジャズやん」って感じなんです。今でも通用するジャズやったから、いざ売り出したら結果としては予想に反して売れたんですけどね(笑)。これ出したことで「澤野ってところがあのCD出したんやな」って歴史に残るんです。ジャズ喫茶のマスター連中にもいいインパクトが与えられたのを覚えています。
 そんな商品を卸屋さんに流したらどうなるか。向こうは商売やから数字がとれる商品を扱いたいでしょうし、結局モノだけ勝手に流れよるから「澤野がこれ出すから」って言うてオートマティックに流れて、余ったらオートマチックに返品されてしまいます。その時思ったんですよ。「自分以上のセールスマンは絶対に存在しない。ウチの社員以上のセールスマンは絶対によそにはいない。」ってね。だから卸屋に頼ったらうまくいくっていうのは虚像やと思ったんです。

DREAM TALK/ヴォルフガング・ダウナー・トリオ
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