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 ジャズレーベルはじめてから14年が経ちました。だけどここまで来るのに時間かかりました。ずっと広告も出さずにお客さんをじっと待っているうちに大分状況も変わってきて、ウチの商品も売れるようになって来るんです。大型店一店舗で売れると「ここだけ突出して売れているこれはなんや?」ってわかるバイヤーが増えてきてまして、情報が一カ所でもポコって出たら、いっぺんに情報が広がります。全国チェーン店のどっかでポッと跳ねると、意外と簡単に聴いてくれるようになっていきました。

 他にもインターネットが普及してきたおかげで、今や情報がほっといても流れるようになってきています。ウチも3,4年前からサイト作っていまして、更新したい時はスタッフが目の前でやってくれるからむちゃくちゃ速いです。

 それとやっぱり小さい会社なりの利点を活かした、っていうところが大きいと思います。
 第1に「ええなあ」って思うことに即答ができるからなんです。現実に起こったことなんですけど、フランスにいいミュージシャンがいまして、「音聴かせて。」って聴かせてもらって「ええねえ、契約しよ」って言うたら手続き終了です。責任の所在は僕にあるから、誰に諮ることもなく自分が思っていることにストレートに動けるんです。ところが、その同じミュージシャンを日本の某大手の会社が見つけた時に「そのレコード、日本で出したいんですよ。契約したいと思いますので、本社に戻って上司に諮ってみます。」って言ってそれから1年間音沙汰なかったらしいです。そういう意味で小さい集団の方が即断力でははるかに速い。

 第2に、ウチは大企業と違って「営業」と「技術」が分かれていないから自分自身が作り手であり、送り手であり、受け手であるので、顧客の要望がダイレクトにCD制作に反映されるんです。大きなメーカーでしたら営業と技術と分かれてるでしょ。技術っていうのはええもん作ろうって思うけど時として自分の思った通りのもん作ってしまいます。営業は一生懸命売ろうと思うけど、お客さんの声は営業で止まってしまって技術の方まで行きません。だから本当は技術者が営業やったら一番ええもん作れるのと違うかな、って思います。ウチは営業と技術なんて分けてられないから、プロデューサーもやらなあかんし、営業もやらないとあかんし、自分でCD買うから消費者でもあります。だから、お客さんが何欲しがっているかがよく見えるんです。お客さんの立場で考えて、「こんなんあったら楽しいな」っていうのをお客さんに出せる。財布持って「なんかないかな」って言うてレコード屋に行く人と同じ感覚になることで、色々と見えてきました。そうやって、お客さんが求めているものにぴったりはまる商品を作ろうとしています。

 第3に、沢山売ろうと思わなくていいんです。大手のとこは最初CD作る時に、こういうことしたらこれぐらい売れる、こういうことやったらもう少し範囲が広がる、もうちょっと味付けしたらもうちょっとお客さんが取り込めるだろう、って商品作りますよね。だけど、ウチはものすごく沢山売ろうと思わないから、確実なお客さんだけいればいいんですよ。14年間、ずっとお客さんと一緒に育ってきたっていうか、自分とこのことを理解してくれる人とずっと付き合ってきているから、ウチが商品に関して真剣に取り組んで、お客さんに満足して頂ければそのお客さんとはずっと密接につながっていられるんです。
 だからウチは一枚CDを作ったら、どれくらいの人が買ってくれるか、どの人にこの情報が伝わるか、っていうのがある程度見えています。よそから見たら宣伝もしない澤野が何故あれだけ売れるかわからないんだと思うんですが、買ってくれる人が減らずに増えていくから何も宣伝する必要がないんです。余計な経費が全然かからない。その分を新しい企画に全部まわせる。好きなことをやって面白いことをやってるから人に伝わる。だからだんだんお客さんは増える。そして、それでも余計に売ってやろうとは思わない。だから連続して売れていく。14年かけて作ったこのサイクルのおかげで沢山CDを作らなくてもいいし、宣伝もしなくていいんです。逆に、変に売ってやろうと思って余計な広告とか出したら多分お客さん逃げると思うくらいです。
 
 今、広告してモノを売っている企業が「今すぐ広告やめてみろ」って言われても恐くて絶対やめられないのやと思います。多分麻薬のようなものだと思います。広告が必ずしも無効だとは思いませんし商品の告知という点では有効ですが、限界はあると思います。けれど、最も大事なのは商品力とお客さんの満足度だと思うんです。
 ウチは小さいターゲット絞ってそこから広がるんです。これから情報発信しようと思ったら、その情報が「誰に」伝わるのか、その先端を見てないとあかんと思うんです。だってこれからの時代、最大公約数的な商品は絶対ありえないでしょ。みんなが同じ方向向くってことはありえないわけだから、だったらこっちの方を向いてくれる人にきっちり伝えたい情報を伝える、そしてそれが本当に伝わっているか、を送り手がずっと見てないといけないんです。

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