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 そんな時、僕が懇意にしてもらっている日本橋の電気屋の社長(当時)から「おい、新世界沈没してるやんか!」って嫌みを言われたんですよ。今なら、お返しに「日本橋沈没してるやんか!」って言ってやるんですけど(笑)。
 
 その社長曰く「おい澤野、なんかやるなら30代でやっとけ。40なったらまず体力がない。起業するんやったら30代やないとしんどいで。」って。まあ、50代でも起業してる人はいますから一概には言えませんが、下駄屋の状況も考えると30代でなんかしよと思いました。そして弟の結婚、そしてフランスへの移住をきっかけに30代前半にジャズレーベル「澤野商会」を立ち上げたんです。

 お金はもう全然。何にもなかったです。下駄屋をやっていたから何とか食べることだけは出来ました。でもその下駄屋の業績は下降線をたどっていました。
 知名度も無かったから、商品を買ってもらえなかったんです。その当時は「なんでこんなええもんが分からんのや。」っていう気持ちでいっぱいでした。けれど、セールスに行っても全然話を聞いてくれず、売り場の人は自分の成績に関係してくるから「これ売れますよ。」って言っても「よそのメーカーもっと売れますから。」って一蹴されます。商品の知名度(ブランド化)が上がり、流通システムに乗ったらこんなに楽しい商売はないんですけれど、分かってもらうにはめちゃくちゃ時間がかかる。セールスが1番しんどいかったですね。
 
 それでも資金面、流通面その他もろもろの問題があって、立ち上げ当初から今までに3回ほど仮死状態!になりました。1回目はレコード輸出会社ではじまったけど、音楽業界全体がレコードからCD移っていき、商品であるレコードが無くなってしまったんです。だから売るもの無くなってしまったんです。2回目は輸入商社になろうかと思って、クリスクロスっていうオランダの会社と契約して売り出したんです。これが売れるものは売れるんやけど、売れへん品物は在庫残るわけです。だから一生懸命に働いてもお金のかわりに品物が残っていく。その在庫処理に追われて、商品を仕入れるお金が無くなってしまい……そして3回目は廃盤屋をしたんです。東京のあるテナントが店の一角をウチに任せてくれて、そこで廃盤の中古レコード売ってたんです。大阪にいながら、商品に値段つけながら商品を東京に送るっていう仕事。でそこが売れて、なんとか食えるようになったんですけれど、そこのテナント自体が無くなってしまうことになって。来年の3月で店を閉めます、って言われた時は目の前真っ暗になりましたね。これで万事休す、もうこれでなんも出来ひんわって思って。その3回目が45ぐらいの時かな。今から8年くらい前。この時は困りました。下駄屋もあかんし、本気で職を探しました。でも仕事はありませんでした。


 お金も無いし、場所も無い。それでも自分で店やるしか無いかな、ってだんだん思うようになって来たんです。って言うか、40過ぎたら職なんかないし、自分でするしかないんですよ。それで何をしようかと考えていたんですが、この時レコードが助けてくれたんです。よく考えるとレコード屋ができるくらい商品持ってたんです。なにせ、買いたいジャズのレコード全部買って、他に日本で買うレコードが無くなったぐらいでしたから。大学から買い溜めていたレコードもあったし、働きだしてからは給料全部つぎこんでレコード買ってて部屋中動きがとれないぐらいありました。本当は、レコード屋は自分らの子どもが結婚してしまって、出ていってしまってから嫁さんと2人で食うぐらいのレベルを考えていたんです。けれど最悪レコード屋しても食えるな、そういう気がしました。

通天閣朝景

 弟はフランスにいるんですけど、弟もジャズが好きでして。弟のええところはどこに行ってもビビらないんです。だから飛び込みでミュージシャンと契約を取って来ます。一方僕ははったりが利かないから。飛び込みなんて行けません。でも商売人やから折れていくんで、セールスには向いています。配置がうまいこといってるんです(笑)。これが逆で、弟が日本で流通作ってたら100%あかんかったやろうし、僕がヨーロッパでプロデューサーになって新しいミュージシャンの発掘しても絶対だめだったと思います。
 兄と弟、どっちが欠けてもダメなんです。本当に争ったら一番きついけど、ケンカしても明くる日なったら忘れてるくらい、後に残ることがほとんどありません。ひょっとしてそれは、フランスと距離があるせいかも知れません。 

 スタッフは、娘もお嫁さんもいれたら併せて全部で5人です。あと東京に一人います。歴代3人女の子来てくれたんですけど、最初女の子やからって思っていましたけど、みんな任した仕事っていうの、本当に一生懸命ちゃんとしてくれるんです。手を抜かない。下手したら男の方が負けますよ(笑)。僕なんか、仕事慣れだしたら手抜いてきてしまう(笑)。本当によく働いてくれるんで、いつも感謝しています。

由明さんと女性スタッフ
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