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そんな中、次は平面作品に移行されるんですよね。これはどういうキッカケで?

95年にイギリスから、フラービオ・ティトロという全盲で石の彫刻をやっている人が、東京のワークショップに遊びに来てくれて、ワークショップもちょこっとやってくれたんです。彼はなんで日本に来ていたかというと、その夏に石川県の七尾で彫刻の野外シンポジウムみたいな感じのところで、野外制作をすることになっていたらしく、1ヶ月間、滞在制作をしに来ていたんですよ。その合間をぬって、東京まで来ていたんですけど。フラービオさんに会ってみると、石の彫刻をやっていると言うんですが、僕には信じられなかったんですよ。実際の制作は全部彼ひとりでやっているって言うんで。石なんてドリル使ったりとか、結構大変ですからね。危ないし。ホンマにひとりでやれるんかなぁ、と、まず疑いの目から。

疑いの目から、よし、確かめてやるぞ、と。

そう。で、行ったんですよね。石川県の七尾まで。そこで、実際に制作している所を見せてもらうと、本当にひとりでやっていたんです。色々工夫して、テープを貼ったりして、やっているんですよ。そして、彼が持っていたスケッチブックも見せてもらったんですよ。するとそれがラインテープで書いた下絵だったんですよね。A4くらいのスケッチブックに20枚くらいの石を切るときの下絵がありました。そのスケッチブックを1時間くらい、一所懸命に触らしてもらたんですが、結局そのスケッチの方が印象に残ってしまった。まぁ、石の方はまだ造っている段階でしたからね。僕はそのスケッチブックに描かれていた触ってわかる絵にすごく興味を持って"これやったら自分で絵が描ける"って思った。京都に帰ってきて、画材屋さんに行って、テープ買ってきて、やりはじめたという。まぁ偶然というか何というか。

その頃、いわゆる視覚障害をもつ人たちの中で、テープを使って絵を描いていくっていう文化はあったんですか?

なかったと思います。フラービオさんは2年ほど前に亡くなりましたが、回顧展でも、テープで描かれた作品は出ていなかったですね。だから、こりゃ僕が初めてやな、と。

すごいですやん。それ。

ただテープの素材に関しては馴染みがあったんですよ。大学時代にさかのぼるんですが、ちょうどその頃、障害者運動が活発になりはじめていたんです。視覚障害者も盲学校ではなくて、地域の小学校に通う子が増えはじめていた時期なんですよ。僕は小さい頃から盲学校へ行ってしまって、後にギャップに悩んだ経験があるので、小さい時から一緒にやるのがいいかなって思ってて、そういう運動に関わっていたんですよね。そんな中、点字教科書がなかったんですよ。もちろん盲学校へ行けばあるんだけど、普通校とは教科書が違うので、普通校に通う子用の点字教科書をつくるのを手伝っていたんです。そこで図をつくるのにテープを使っていたんですよね。ボランティアの人がつくったものを僕が校正する役目で、ひたすら触っていたんです。色んな算数の図形とか"ややこしいなぁ"って思いながら。

三角とか四角とか。

展開図みたいなのが出てくるでしょう。立体図形がどうのこうのとか。そういうのを触ってわかるかどうかって確認してました。まさかそれを使って絵を描くとは思っていなかったですが、こういう素材が世の中にはあるんや、ってことを知ってはいたんです。テープを触りながら、そんな昔を思い出したりしてました。

なるほど、過去の経験がそこで繋がったんですね。世界初のテープを使った平面作家かー。すごいですやん。開祖ですね。わはは。

ははは。テープのことをずっと調べていたら、1960年代にイギリスの現代アートのアーティストがテープを使って壁に貼っていくっていうのがあったそうです。日本でも展覧会があったそうですし、影響を受けてやってた人もいたそうですよ。その人は壁いっぱいに貼っていくっていうスタイルだったそうです。その人の方が僕よりちょっとはやいかもしれません。まぁ、その方は弱視ですけど。

とにかく、テープを使って描かれた平面作品にしっくり来られたんですよね。

そうですね。

いわゆる造形作品、粘土の作品よりも。

おもしろいなぁと。もともと絵を描くというのは、やりたかったことだったんでしょうね。
またさかのぼるんですけど、幼稚園の頃、絵画教室みたいなのに友達と通ったことがあるんです。でもやっぱり上手く描けなかった。はみ出してね。3回ぐらいでやめてしまった。小学校の頃にだんだん視力が落ちていくんやけど、ちょっと字を書いてみたいとか、絵を描いてみたいとか感じながら、視力が落ちていくなかで、随分かきたいという思い残しをしていたんだと思います。そんな気持ちがまた蘇った感じで、絵を描くのは粘土よりも面白いかなって、だんだんと感じて行くんですね。ちょうどその頃、患者さんの中に画家さんがいらっしゃって、その人の絵画教室に押し掛けて、僕も一緒になって描いていたんです。そうしたら、「線が面白い」ってことを言ってくれて、画家の人もすごい褒めてくれて。


うけたんですね。

そうそう!うけたんです。粘土の時よりうけた。わはは。

成功体験がやる気を伸ばしますもんね。

" お。こりゃどうも面白いぞ"と。


"僕はこれかな?"って。

最初は自分の絵がいいのか悪いのか全然わからなかったんです。でも褒めてもらって"あー、これはいいみたいだな"と。

絵をお描きになる時、頭に浮かぶのは、線なのでしょうか?それとも立体的なイメージなのでしょうか?


それは難しいな。どっちだろうなぁ?話はそれますが、例えば抽象的な形を描く時、自分の好きな形をまず先に描いてから、増殖してゆくような描きかたをする時もあります。でも、色々ですねー。そうそう、実は最近凝ってる描きかたがあるんですよ。連画というのをやっているんですが。

レンガ?

前にもコンピューターのアーティストと絵のやりとりをしていく"触覚連画と"いうのをやっていたんですが。

あー。連画ですね。

そう。昔の連歌から来ている言葉です。今度の1月、京都のGALLERYはねうさぎで、船井美佐さんという日本画の方とコラボレーション展をするんですが、船井さんがおっぱいの絵を描いてきて、丸がいっぱい描いてあるんです。それをヒントに僕も何か描かなくてはならないのですが、その丸がすごい印象的だったもので、丸を使って人体を描こうと思っています。例えばこの膝とか足首とかくるぶしとかって丸じゃないですか。その丸いドットをまず紙の上に置いて、足とか膝とか腰とか肩とかを描いていく。キャンバスに置いたドットを線で結んでいくというのをはじめてやってみましたね。

おもしろかったですか?

おもしろかった。今ちょっとハマってる。

人体というのは、普段のお仕事の中でも随分馴染みの深いものですよね。

だけに、なかなかくずして描けなかったりするんですよね。大体、いつも触っているのは背中が殆どですよ。

(インタビュアー:1月の「触覚と視覚の交差点」のフライヤを見る)この絵はおもしろそうですね。


船井さんから今、蛇の絵が返ってきちゃって、どうしようかなと考え中です。日本画って言っても、日本画で使う画材を使って、わりと現代的なものをお描きになるんですが。

船井さんの絵を光島さんは、どのように認識しているのですか?

一応僕が触ってわかるように、顔料で盛りあげている。船井さんは普段からわりとそういう描き方をしている人なんです。

盛りあげ系のふたりのコラボなんですね。


わはは。船井さんは、ラインを結構重視している人なんで、僕とうまくハマっているんじゃないかな。

アートに関わることで、生活に何か変化がありましたか?

う〜ん。ひとつは鍼の仕事への関わり方に変化があったかな。開業したはじめの10年は勉強して勉強して、こうマニアックに。

テクニカルに追求して。

それが絵を描きはじめるころから、何というかこう、"結構好きなようにやってええんやな"って。

わはははは!自由になっちゃった。


鍼の打ち方も、どこか自由になって。自己流でいいかなって。ひらめいたツボを使うとか。

ひらめいたツボ!!うわー!

そういうやり方にだんだんなってきて。

それすごいですね。それでどうなんですか?結果として。

どうかなぁ。患者さんの数では結果は出てないけど、納得いく治療が出来るようになってきましたね。

納得いく治療。へーそっかー。鍼を打つのもどこかアートっぽいですね。


そうそう。鍼灸治療の本質的な部分ではアートっぽい側面があるんです。でも普通にやってればかなり保守的な感じになりがちかな。僕はアートをやりはじめてから、自分流のやり方でやっても治るな、って感じを掴みました。今は割と自由にやってます。


鍼のお仕事は患者さんとのふれあいも大切なんでしょ?

そう。ふれあい。触れ合い。それぞれの患者さんが訴えてるっていうか、表現している痛みを感じとるってことからはじまるんですよ。

だから、患者さんにとってみれば、針灸師さんに風通しのいい空気感があれば。

なんかええような気はしますね。トコトン話をきいたりとかが大事な仕事ですから。

光島さんにとっても、ものをつくるっていうのが、励みになったんですね。

鍼治療は患者さんの痛みとか話を聴いて、受けとめる仕事です。アートは自分から発していく作業。だから治療ばっかりしていると、どんどん蓄積していくんですね。それをアートの方で出していくというか。上手くバランスをとれているんじゃないかな。そういう意味では気分的に楽になっていると思うんですよ。つくることは自分にとって大きいことです。今は、ちょうどバランスがいい感じですね。
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