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29 小鹿由加里インタビュー



                                  インタビュー構成:森本万紀子

この夏、滋賀会館で行われるContact Improvisation Meeting Japan(CIMJ)は、コンタクト・インプロヴィゼーションという身体技法をさまざまなアプローチから学び、同時にコンタクト・インプロヴィゼーションを通したダンスと社会との関わりを考える機会をも与えてくれる、注目のワークショップ・カンファレンスです。
 今回は、このCIMJに制作として携わっている小鹿由加里(おじかゆかり)さんにインタビューしました。フリーランスの若手ダンス制作者として、関西圏を中心に躍進中の小鹿由加里、通称オジー。農学部出身のダンス制作者という異色の経歴の謎を解き明かしながら、観客からはなかなか見えにくいダンスの制作という仕事の内実に迫ります。
 またPEOPLEではこのCIMJのディレクターである坂本公成さんと森裕子さんにコンタクト・インプロヴィゼーションを軸にお話を伺いましたので、そちらも併せてぜひご一読ください。
 

 

農とアート
「幼い時から農業に目をつけていた」


森本 農学部からダンスの制作へ、というあまり例を見ない経歴に興味津々なので、まずはよくプロフィールに書かれている「けっこう幼いうちから農業を目指していた」という生い立ちから、お話が聞きたいなと。

小鹿 実家は自営業、家も町中で、農業とは無縁だったんだけど、ある時、姉が小学校の社会科の授業で聞いてきた農業や環境問題の深刻な話を聞いた時、「私が守らな」というヘンな正義感を抱いたんですね(笑)。それ以来、農業や環境に興味を持つようになりました。
 家の近くにある河原でキャベツとか普通に食べるものが育てられている状況に、「すごいな。こうやってできるんだ。自分でも出来そうだなあ」と思って、ホームセンターで苗とか種を買ってきて自分でもやってみたんだけど、なかなかうまくいかない。なかなかうまくいかないけど、種や苗のこの形が、いちごなり何らかの口に入るものになるという過程が面白かった。
 いつしか中学校出たら農家になると決意していたんだけど、親に理解されず普通に高校へ入学。そして大学は迷いもなく農学部に入学。その頃まではアートや芸術の、「ア」の字も「ゲ」の字もなかったです。

森本 じゃあアートとの出会いは大学で?

小鹿 大学でいろんな友だちと出会って人脈が広がっていくうちに、デザインとか表現が面白くなってきた。特に刺激を受けたのはいつも口ぐせのように「僕の人生は芸術と女と酒だ」と言っていた研究室の先生。しょっちゅう飲みに連れて行ってくれては、アートの話だの、世界をまたにかけて恋をしただのという話を誇らしげに聞かせてくれて(笑)。おんなじ話を何回も聞いてるうちに、いつしかこういう生き方はいいなと思うようになっていた。
 大学に入って実際に農業を少しずつやるようになって、白菜農家にバイトに行ったり、奈良の明日香村で田んぼに足を突っ込んで本業としての農業なるものに触れてみたんだけど、いかんせん体力的に無理。バイトはクビになるわ、農作業に行っても、作業するよりもとれたての米を食べたり、飲んだりして過ごしてた(笑)。でもそこで感じる感覚はすごく良くって、体力以外で私が入っていく術はないだろうかと思っていた時に、そばにあったのがアートだった。


 


 
  左:大根を収穫した時右:「苗から結球し、野菜になって口にはいっていくのが不思議で、その過程に居合わせたいと思った」
 
小鹿 一時はアートばかりで、もう農業は終わりかなあと思った時もあったけど、大学院に進学して何か新しいことをしたいと思った時、ちょうど農村部で行われているアートプロジェクトというものがある、ということを知ったんです。で、これだ、と。さっそく「農村とアート」というテーマをたてた。担当教授からも「誰もやってないし、よくわからんから、好きにやれば。」というお言葉をいただき、独走で進めることができました。
 リサーチに行く先々には面白い人が多かった。婦人会や農家、近所の人が、作家や芸大生と一緒になって動いていて、アートを通じて人が縦横関係なくつながって、ひとつのものをつくったり、場をつくってた。
 それまでアートは、ただモノをつくって出すだけのもの、おシャレで格好いいものと思い込んでいたから、そういう、人が集まることで新しいアクションを起こせるアートの存在を知って、ますますアートに魅力を感じたんです。

メガネ 実際、どんなリサーチ先に参加したんですか?

小鹿 はじめは、『灰塚アースワークプロジェクト』。広島の灰塚というダムの底に沈んでしまう村で、岡崎乾二郎さんやPHスタジオさん、芸術や建築系の学生たちが滞在し、村が沈むまでの間に村の人たちとどういうアクションをアートで起こせるかというプロジェクトをやっていました。
 私は研究者として参加したんですが、その時にアーティストから痛烈な非難を浴びた。「みんなが現場をどうしようかと一生懸命になっている時に、君は起こったことだけ見て評価するのか」と。そこで、この研究者という立場からは中の人から正直なことを引き出せないことが分かったし、それはほかのプロジェクトでも同じでした。
 当初は博士課程に進むことも考えていたけれど、机上のみの研究や単なる傍観の立場からは本質を知ることはできないと思って、現場の人と同じ場所に身を置きたいと思うようになったんです。

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