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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


29 小鹿由加里インタビュー


アートの現場で働く
「“制作者”という言葉が根づかなかった時代の、これ何の作業やねんって思いながらやっていた活動」


小鹿 それで現場レベルで関われる場を京都で探していた時に、 “アートスタッフネットワーク(以下、アースタ)”に出会いました。樋口(貞幸)さん(現在はアートNPOリンク事務局代表)が始めた組織で、アートの現場で一緒に動く人を募集していた。そこでボランティアを始めました。
 ちなみにアースタ出身の人たちは、現在制作を仕事にして活躍している人たちが多いです。

メガネ 具体的な活動内容は?

小鹿 京都の暑い夏ワークショップの受付とか、神戸アートビレッジセンターの『アート・アニュアル』の搬入手伝いとか、ART COMPLEX 1928のライブ受付とか、美術や舞台を中心に、いろいろな仕事があった。当時2000年頃のボランティアというのは、単なる奉仕活動の印象が強かった時代だったから、意識を持った人によって行われるものとしては、画期的なものでした。
 その頃はまだ “制作者”という言葉が一般的に知られていなかった時代で、これは何という役割になるのかしらん(笑)って思いながらやってた。
 樋口くんはその頃からずっと「アートはアーティストだけじゃ出来なくて、もっと観客とか社会とかスタッフとか、いろんなものを含んでつくっていくもんだ」って言っていて、それは今でこそ当たり前のことだけど、当時の状況はそうではなかった。だからこそ、アースタには、作品をただ見るだけじゃなくて、その展覧会なり舞台なりがどういう風に成り立っているのかを知りたい、という下心を持った人たちが集まっていたと思う。


 
  『京都の暑い夏 京都国際ダンスフェスティバル』チラシ
 
小鹿 アースタの仕事で多かったのが、チラシ撒き。すごい地味な作業だった……。
 チラシ撒きがイヤになった時期があって、なんで無償で、頭下げて、店を回らなあかんねんって思ったりしたこともあった。でもその仕事を通してどういうところに劇場やアートスペースがあるのか、置ける場所や置けない場所、チラシのはけ具合がいい場所などなど、町を知ることが出来たし、そこにどういう情報の需要者がいるのかを知ることが出来た。今、情報をどこに送ったらいいのかを仕切れたり、手伝ってくれるボランティアにも、チラシの町置きがただ置くだけの作業ではないことを伝えられるのは、こうしたアースタの活動があったから。現場に身を置いたことで得たことがいっぱいある。

メガネ どこが制作者になるラインだと思いますか? 

小鹿 そこに自分の意志があるかどうか。たとえばチラシ撒きにしても、受付を担当するにしても、自分だったらこういうチラシの撒き方をしようとか、受付だったら、当日はお客さんをこういうふうに迎えようとか。自分のアイデアなり伝え方が込められるようになったら、制作者としてやっていけるんじゃないかな。さらにそこに対価がついてくると、さらに確かなものになる。


制作という仕事
「制作の作業の育てる感が、植物を育てるのと似ていたのかもしれない」


森本 小鹿さん自身は、そういうボランティアからどういう経緯をたどって制作者として独立していったんですか?

小鹿 2002年のしげやん(なにわのコリオグラファー・北村成美)の『ダンスマラソンVol.2』の制作者募集の話がアースタに来て、「じゃあ行ってみるわー」って軽い気持ちで行ったのが始まり。ところが行ったらけっこう求められることが多かった! 新聞社へのお知らせやチケットづくり、スタッフの手配、場のつくり方、会期までのお客さんの楽しませ方。それらを把握して、どう進めていくかをコーディネートする責務が与えられたわけです。その頃から「制作」って言われるようになったのかな。


 
  『北村成美のダンスマラソン』
 
小鹿 それまで制作はただの単純作業の連続だと思っていたのが、公演をつくりあげるまでの要素を一挙に担うことで、制作というのは、それらをどうつないで公演に至らしめるかを行うことだと気づいた。その辺が、水をやったり陽にあてたりして、種から食べ物にしていく、農業のおもしろさと似ていたのかもしれない(笑)。

森本 ここで農に戻ってきた、ようやく(笑)。

小鹿 戻ったね(笑)。この頃は、アート/環境/農業とノンジャンルで「何かを提案する場をつくっていく」ということに、たくさん関わっていた頃でもある。例えば『Be Good Café KYOTO』。環境や戦争といった社会的課題をいかにポジティブに、楽しく考えられるかを提案するトークサロンだったんだけど、ここではテーマごとにカフェのコンセプトを考えたり、紹介する町のお店を探してマップをつくってた。あと『復活市』という環境NGOが主催するイベントでは、古材市やてづくりマーケットが開かれる中、『身体の復活!』というテーマでダンスのワークショップを開いたりしていた。
 ひとつの事柄を伝えるために、真正面からの入り口ではない扉を探す傾向が強くなった時期だった。性格がひねくれてるからかな、いつもまっすぐ歩いて入ろうとはしないのが如実に現れてる(笑)。


 


 
  左:京都橘女子大学の企画では「デザインする農」をテーマにワークショップを開催。右:京都府園部の農塾で。「もみを畑の保温に使うなど、環境の中にあるものをフルに利用するという農の知恵は制作にも影響した」
 
森本 そういう場をつくっていく中で、制作者としての具体的な仕事内容は?

小鹿 まずは伝えたいことがあって、その伝えたいことをどういう形で提示するかという企画をつくる。一方で、実際に現実にどうやって落としていくかという事務的な部分がある。うーん、制作には企画と事務の2種類があると思うな。
 それをどのくらいの割合で担うかは、それぞれの場合によるかな。企画と事務が7:3のケースもあるだろうし、立案は自分以外の人がやって、事務的な部分だけを担う制作もあったり、逆に制作者が立案し、そこにアーティストが入っていくという場合もある。いろいろなタイプがある。
 私の場合は、何かフレームや作品世界がもともとありきな状態からはじまって、そこから自分の思う拡げ方に持っていくやり方が多いです。

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