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(II)新開地アートブックプロジェクト:まちの地質調査(2003年1月13日から3月30日まで)(注13)

http://www.kavc.or.jp/sas/top.html/

http://www.dnp.co.jp/artscape/view/recommend/0301/kinoshita/kinoshita.html

 KAVC(神戸アートビレッジセンター)と、新開地まちづくりNPOの共催である。主として二つのプログラムから成る。
 一つは美術家の井上明彦を中心とする曙団(井上等、写真を主とする美術家達の集まり。このプロジェクトにちなんで結成された。)主導の、アートブック『新開地ニューガイド』(仮題)の作成である。古くからの歓楽街であった新開地の魅力を、街や人の日常に即し、調査し、話を聞き、撮影し、そこにて判明したことを一冊の本へとまとめあげてガイドブックにすることが目論まれる。
 もう一つは、このプログラムに関連して催されるワークショップである。井上明彦、山下里加(美術ライター)、宮川敬一(美術家)(注14)がそれぞれ中心となり、《カメラ撮影による街のカタログ作成(2月1日・8日)》《街の人への聞き取り取材(2月15日・3月1日)》《知覚地図の作成(3月8日・9日)》というテーマで、参加者とともに街を歩きつつ行なわれる。このワークショップの成果は、3月22日から30日まで、KAVCにて展示される。
 写真を撮ること、文を書くこと、地図を作成すること、これらは何れも表現である。参加者は、各人なりにその筋のプロフェッショナル及び他の参加者に接し、そこから自分たちなりの日常的な感覚とは別の何かを感じ取り、あるいは己のものの見方で、自身今まで気づかなかったことに気づいたりするのにいい機会であると思われる。

 筆者は、井上明彦のワークショップに参加した。そこにて気づいたことを、いくつか書いておく 。

参加者は、初日五人、二日目四人。そのうち両日参加は三人であった。新開地に所縁のある人は三人、あとは筆者のように、プロジェクトそのものに関心を持ち参加した、新開地をよく知らない人であった。

初日、《カタログとは何か》一般論を井上が話す。「一つ一つ、ばらばらな状態で見ているだけでは気づかれ難いことがらが、一緒に集められると見えてくる」と述べる。そうして実際に、各人が白色と思うもの(ノートや消しゴムなど)を机の上へとたくさん並べてみる。それらの対比において、白にも色々あることが示された。すなわち己が白と思うものも、他の人が白と思うものと比べて見ると、実際のところ黒ずんでいたり茶色がかっていたりと、様々であることにはじめて気づくというように。

散策中の一風景
(KAVC事務局より借用)
両日ともに井上が、自身、街歩きで気づいた面白い場所へと、参加者を連れ回す。古い建物、子供の遊び場など、日常生活していても気づかれ難く、それでいてよく見てみると実は面白いこと、その生活上の工夫が見事であること、あるいはそれが置かれているだけで実際のところ街にて活用されていないこと(高層の建物のワキにとってつけたように置かれた遊具など)に気づかされたりする(筆者の印象に残ったのは、取り壊される直前のパチンコ屋の屋上にあった鳥居、ポルノ雑誌と学術書とが混在している古本屋、『大便禁止』の張り紙など)。
一緒の街歩きの後は、自由行動。参加者各人は、井上の談話をヒントに、歩いていて自分なりに面白いと思ったものを思い思いに撮影する(筆者は、初日は奇妙な張り紙、道端や、家の前に放置されているゴミともなんともつかぬもの、二日目は路上駐車の自転車を撮影した)。

フィールドワーク後の講評
(KAVC事務局より借用)
その後、KAVCへと戻り、井上の講評。参加者各人が思い思いに撮った写真につき、井上が色々述べる。当の写真で自身気づかぬことに、彼なりに魅力を見出し、それを指摘してくれる。たとえば筆者がなんとなく撮った自転車にしても、井上に言われ、自身、実は一台か二台、見捨てられたかのようにとめられているものにばかり着目していたことに気づく。二十数枚並べてみて、互いに比べ、それらの違い、共通項など、一枚一枚見ているだけでは気づかぬことに自身気づき、あるいは井上により気づかされたりする。彼の指摘がきっかけとなり、気づかなかったことを見、日常の、なんとなく漠然とした感覚が、はっきりしたものへと変容する。漠然とせず、自覚してものを見ている自分がそこに居た。

二日間だけでも、貴重な経験を得るきっかけであった。井上の談話、ちょっとした言葉のやりとりに、独特のものの見方が随所うかがわれ、また、自身において自身気づいていなかったことに気づかされるという、発見の機会でもあった。

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