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最初に出版された本『僕の話を聞いてくれ ザ・ブルーハーツ I LOVE』は、当時、人気絶頂だったブルーハーツの本を、既にベストセラー作家だった、吉本ばななさんに執筆を依頼されたものですよね。
「その前に『キッチン』を読んで、すごい良かったし、何かの雑誌で彼女がブルーハーツが好きというような記事も読んだことがあって、彼女しかいない!と思ったから。こっちは、無名の駆け出しの編集者やし、まだリトル・モアの事務所もなかったけど(笑)、オッケーもらえると思ってた。根拠のない自信やったけど、いけると思ったな。だって、結局、ブルーハーツも吉本ばななも、根底に流れているものは一緒やからな。」
 
 
出版するという行為は、何かを世に問うことだったり、文化を担うという責任があるのではないかと思うのですが。
「全然そんなん、思ってへん!まったく!!僕がやりたいものを出してるだけ。それで最先端を切って何かやってるなんてことは、全くない。ただ、面白いと思ってやってるだけや。」
「そりゃ、リトル・モアで発行する全てのものを僕が担当するワケにはいかへんから、例えば雑誌なんかは、もう完全に編集長にまかせて、僕は一切タッチしてへん。それはもう自分の中で割り切って、中途半端にはやらん。
 だから、担当しているものに関しては、僕が読みたい本とか、見たい写真集を出してるし、全部に力をいれてやってる。担当っていうのは、まぁ、出会いもあるし、僕が好きなもの、ピンときたものってことになるかな。例えば、最近やったら、奈良(美智)さんとか、川内(倫子)さんとか、中野(正貴)さんとか。」

手掛けたものが後世に残っていくという意識は?
「いいものは作ろうと思ってるよ。すごくいいものをね。後に残したいというよりは、今、とにかくいいものを作って、それが、例えば結果的に、10年たっても30年たっても、簡単な言い方をすれば、それが売れ続けるだとか、そういう事やと思う。それはそれで嬉しいと思うし、奈良さんの本なんかは、5年前に出したものやけど、売れ続けてる。だから、何年後かのことは、その時のことで、今やってる、この時が勝負やねん。今、勝負していいものを出せるかどうかやもん。」

 

 
川内倫子さんの写真集では、木村伊兵衛賞を受賞されましたね。ひとつの、勝負の結果ですね。
「そやなぁ、実際、川内の写真、いいなぁと思ったからなぁ。それがいろんな賞を取って、社会的にも認められたっていうのは、嬉しいな。編集者として嬉しいっていうのは、ま、それは裏でこっそり喜んではいるけど、とにかくあいつが賞を取ったことが嬉しいわ。そのことであいつが次の仕事がしやすくなって良かったな、次のステップに行きやすくなって良かったな、と。だって、これで彼女は、例えば、もっと大きな予算のついた仕事ができたりして、それでもっといい作品ができる可能性が広がるワケやから。」
「そうやって作った、次の作品を早く見たいね。すごく見たいと思うね。
 こないだも奈良さんと話してたんやけど、また次に何か作ろう、何かやろうって話になった時に、次に奈良さんがどんなものを出してくるのかな、って、すっごい楽しみやねん。わくわくするし。」

次にどんなものを作るか、アドヴァイスされたりするんですか?
「いやぁ、逆にアドヴァイスされるで(笑)。竹井さん、それはダメだよー、とか。」
「僕は、作家でもアーティストでもないから、とにかく、作家がどうやったら次のステップにいけるかっていうことを常に最優先で考えてる。それは、もちろん次の作品が見たいってこともあるねんけど、まず、その時点での彼等の才能って凄いよ!ホンマにすごい。だから、次のものもどうなるのか、興味を持つんやけどね。」
「だって、吉本ばなななんて、間違いなく天才やで。そりゃあもう、彼女の作品って、すごいことが書いてあるし。すごくいい本を出してる。」

才能との出会いの確率は?
「誰かに才能があるってことは、世間的には、なかなか分からへんもんかもしれん。例えば、イチロー選手にバッターとしての、とか、野球選手としての才能があるかどうかって、今は誰もがそう思ってるけど、昔は分からへんかったワケやん。それと同じで、作家も活動を始めてから5年とか10年とか経たないと世間一般的には、認知されへんかったりする。
 町田(康)さんも同じで、僕が最初の最初に声をかけて、彼の本を出して、その後、彼は芥川賞をとったんやけど、受賞されるまで、彼に才能があるってことを、殆どの人は知らないし、認めないんやね。
 才能のある人と出会うのは、やっぱり財産やし、スゴイんやけど、なかなかそりゃぁ、出会わへん。ウチは有名、無名関係なく、いいものを出版するってだけやから、国内外問わず、すごい量の持ち込みがある。でも、コレ!っていう人とか作品とかは、年に200とか300以上の持ち込みがあって、そのうちの一人くらいやからなぁ。」
「コレ!っていう作品は、つまり、コレしかないっていう思いで作ってるねん。そういうものはやっぱり少ない。」

>> 川内倫子写真集「うたたね」
 
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