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Salon de AManTO 天人 CASE STUDY 06 —— 再生
空家再生パフォーマンスに千百二十九人。

本渡 章=取材・文

築百二十年の長屋を改装、その過程を地域に公開した天人。
人と資源を生かし、共感を呼んだサロンの実験は、いま中崎町と世界を結ぶ。
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 カフェでは若者と地域のお年寄りが語らい、同じ空間がパフォーマンスのステージになる。一角にはミニFMの放送局も開設。二階は文化教室や講座の会場、時に全国から集まるアーティストの宿泊所にもなる。「Salon de AManTO 天人」に集う人々は多種多彩。中崎町の地域に根ざしながら、国内はもちろん海外からも来訪者が絶えない。開かれた空間という言葉がここでは文字どおり実践されている。
 舞台になったのは築百二十年の長屋。オーナーはJUNさん。パフォーマーとして自立するため、ライブができるカフェをつくろうと思い立ったのがきっかけだった。
「安い物件を探しているうちに中崎町まで来て、歩いたときには、もうここしかないと思いました。戦後の風景の象徴みたいな梅田のすぐ隣で、焼け残った戦前の風景があって、両方がひとつの視野に収まっている。日本人が何を得て何を失ったのか、これから何をしていったらいいのか考えていくには、ここは最高の場所です」
 そんなJUNさんの熱意に、最初は難色を示していた大家さんもほだされて好条件で賃貸契約。そこからの展開がまたユニークだ。改装に必要な資金、人手のあてはなくても大丈夫。壊して出た木材や釘、壁土はすべて再利用する百パーセントリサイクル方式で、一人でこつこつ改装を始めた。その過程を「これはパフォーマンスです、どうぞご覧ください」と書いて公開、「空家再生パフォーマンス」と名づけた。
「すると、ご近所の方たちが見に来て、いろいろ教えてくださるんですよ。僕は大工も電気工事も素人でなにもできない。見かねて手伝ってくれたり、足りない機材を提供してくれたり、食事も毎日さし入れていただいて。結局、改装開始からオープンまでの一年二カ月の間、のべ千百二十九人の方が手伝ってくれました。みんなクチコミで来られた見ず知らずの方たちです。ここは舞台にしよう、ここは寝転がれるお座敷にしよう、トイレの中に写真の暗室をつくったら、といったアイデアもいただいて、ほんとにたくさんの方に助けていただき、励まされました。公開して良かった。僕はこの長屋を再生しましたけど、僕自身もここで再生されたんです」
 オープンは昨年七月二十六日。初日からお客さんが百二十人も。その後も、集いと出会いを求めて多くの人たちが「天人」に足を運ぶ。ボランティアで店を運営する若者たち、夕方ここで宿題をする地域の子どもたち、若いアーティストと語らうお年寄りたち。百二十年間、天井を支えてきたたくましい太い梁が、この場所に集まってきた人々の姿をじっと見守っている。

パフォーマー JUNさん
再生のプロセスにさまざまな喜びが見出されたからこそ、結果としての「天人」の魅力が多くの人をひきつけるのだろう。

*1906年生まれの前住人が引き払う直前の日付10月19日で止まった91年の日めくりカレンダーが、壁に張られている。毎年同日、「おじいさんがめくれなかったカレンダーをめくる日」と銘打ったイベントを行う。今年も2度めを開催予定。

大阪市北区中崎西1-7-26 TEL.06-6371-5840
12:00PM〜23:00PM(土・日・祝日16:00PM〜)

*暮らしに根づいた路地には私有地も含まれています。大声を出さないなど大人の配慮をもって散策してください。
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