[中崎町物語(大阪市北区)]
よみがえるキタの長屋まち 本渡 章=取材・文
キタの中心、梅田から歩いて十数分、戦前の路地と長屋が今も残る中崎町で人と人、古いものと新しいものの出会いの空間づくりが始まった。 キーワードは長屋再生だ。
大阪の玄関、梅田を抱える北区は、かつて戦災でほぼ全域が焼け野原になった。梅田と目と鼻の先の中崎町が被災を免れたのは幸運としか言いようがない。戦後の復興と開発で、繁華街キタが戦前にまさる賑わいに沸いても、この町には長屋づくりの家々、お年寄りを中心にした地域のコミュニティが静かに残った。若者が遊び、高層ビルが建ち並ぶキタの風景の隣で、ひっそりと、路地に育まれた懐かしい暮らしが生き続けた。 時が止まった町。そんな言葉が似合う中崎町がこの数年、変わり始めた。空き家になった長屋に目をつける若い世代が現れたのがきっかけだ。築後半世紀を超える長屋が改装を経て、ギャラリー、カフェ、雑貨屋、アンティークショップなどに生まれ変わる。昔ながらの風情を残し、町並みに溶け込みながら……。その数およそ三十カ所。オーナーの多くは三十代。古いまち、古い長屋に愛着を感じてやって来た新しい世代を、町の人々も懐深く受け入れている。誰が仕掛けたわけでもない。時が熟したかのように変貌を始めた中崎町。昨年からは古い家を再生した店が集まって、特別展を行う「中崎町アートフェア」も開催。ぶらぶら歩いても一時間はかからない、この小さな町に、再生された長屋を拠点にして、人と人の新たな出会いがいくつも生まれようとしている。