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探るほどに面白い、知るほど謎が深まる“大阪”という都市を楽しむ。
vol.14 町家・喫茶・文化考(第2回) ─ 記憶、そして再生(リインカネーション)─
(月刊「大阪人」2002年11月号より)

 一九九一年十月十九日。中崎町のカフェ「天人」の片隅に残された、日めくりカレンダーの日付である。その日以来眠ったように時を沈殿させていた町家が、十年の歳月を経て、再び呼吸を始めた。町の記憶と、そこに住まう人の記憶と——。そんなこんなを受け継ぎながら、新しい記憶を刻む再生町家を訪ねて。

[中崎町物語(大阪市北区)]

よみがえるキタの長屋まち
本渡 章=取材・文

 キタの中心、梅田から歩いて十数分、戦前の路地と長屋が今も残る中崎町で人と人、古いものと新しいものの出会いの空間づくりが始まった。
キーワードは長屋再生だ。

 大阪の玄関、梅田を抱える北区は、かつて戦災でほぼ全域が焼け野原になった。梅田と目と鼻の先の中崎町が被災を免れたのは幸運としか言いようがない。戦後の復興と開発で、繁華街キタが戦前にまさる賑わいに沸いても、この町には長屋づくりの家々、お年寄りを中心にした地域のコミュニティが静かに残った。若者が遊び、高層ビルが建ち並ぶキタの風景の隣で、ひっそりと、路地に育まれた懐かしい暮らしが生き続けた。
時が止まった町。そんな言葉が似合う中崎町がこの数年、変わり始めた。空き家になった長屋に目をつける若い世代が現れたのがきっかけだ。築後半世紀を超える長屋が改装を経て、ギャラリー、カフェ、雑貨屋、アンティークショップなどに生まれ変わる。昔ながらの風情を残し、町並みに溶け込みながら……。その数およそ三十カ所。オーナーの多くは三十代。古いまち、古い長屋に愛着を感じてやって来た新しい世代を、町の人々も懐深く受け入れている。誰が仕掛けたわけでもない。時が熟したかのように変貌を始めた中崎町。昨年からは古い家を再生した店が集まって、特別展を行う「中崎町アートフェア」も開催。ぶらぶら歩いても一時間はかからない、この小さな町に、再生された長屋を拠点にして、人と人の新たな出会いがいくつも生まれようとしている。

PEACE MOTHER(ピース・マザー)
北区中崎3-1-8 TEL.06-6374-1907
1階はカフェ、2階はギャラリー、と。レンガタイルのビルごと松原真理子さんの夢の城。P46登場の「工作隊」のメンバーと共に壁をはがし、ペンキを塗り、タイルを張った。白く塗り込めた天井にパイン材の壁、足踏みミシンを利用したテーブル、扉にはめ込まれた色ガラスなど、一見不揃いのものが心地良さそうにそれぞれの居場所を確保している。
No.410(ヨン・イチ・ゼロ)
北区中崎3-4-10 TEL.06-6292-0770
ル・コルビュジェのソファLC2の似合うヘアサロンをと、オーナーの寺坂彰展さんが中崎町で探し当てたのが昭和5年建築のこの建物。木地色の力強い梁組は、コルビュジェ以上のインパクトを持つ。ゆったりとした空間は、時にはギャラリーに変身することも。かつて働いていた茶屋町のビル群を窓越しに眺めながら寺坂さん、「1坪単位でいくら稼がないとダメ、という世界とは無縁。実にのんびりしています」。
No.410(ヨン・イチ・ゼロ)
北区中崎3-4-10 TEL.06-6292-0770
ル・コルビュジェのソファLC2の似合うヘアサロンをと、オーナーの寺坂彰展さんが中崎町で探し当てたのが昭和5年建築のこの建物。木地色の力強い梁組は、コルビュジェ以上のインパクトを持つ。ゆったりとした空間は、時にはギャラリーに変身することも。かつて働いていた茶屋町のビル群を窓越しに眺めながら寺坂さん、「1坪単位でいくら稼がないとダメ、という世界とは無縁。実にのんびりしています」。
創思舎・創徳庵
北区中崎西4-2-30 TEL.06-6485-4554
建築家の久保昌徳さんが築60〜70年の長屋を改装。自身の建築設計事務所(2階)とカフェ、ギャラリー(1階)がひとつになって、癒しの空間づくりをめざした。5室のアパートだった2階は間仕切りをはずした。一階は柱のいくつかを抜いて空間を広く使い、集いとくつろぎを演出。コンサートなどの企画も好評だ。
カフェ廣屋
北区中崎西4-2-12 TEL.なし
生まれも育ちも中崎町という烏川博美さんが「まず、住むとこ探さな」と見つけた、箱軒をもつ昭和初期建築の長屋。六軒長屋のイメージを壊さず、元の梁や土壁を生かして、大正ロマン風の小さなカフェをオープンさせた。店と住まいを仕切るのは、職人技を感じさせる波ガラスを使った木の扉。その向こうに広がる地に足着いた暮らしに思いを巡らせると、建物そのものの息遣いが感じられるようだ。
RAKUNOMUSI
北区中崎西1-9-13
TEL.06-6374-8933
阪神淡路大震災で避難してきたのをきっかけに、画廊「楽の虫」を開設。中崎町の新世代店舗の1号店だ。2店目の雑貨店も町家を改装。天井、柱、欄間など、昭和初期のうどん屋さんだったという元の姿をできるだけ生かしているが、床に埋めたタイルなどはオーナーの宮久保忠広さんのアイデア。宮久保さんは「中崎町アートフェア」の呼び掛け人でもある。
Lights(ライツ)
北区中崎西4-1-14
TEL.06-6374-3347
路地のそのまた奥にひっそり。築120年、木造平屋建の小さな住まい。そこに降り積もってきた時間が、マイペースな自分の肌に合っていた、と穂積敦士さんは語る。家具職人の友人たちのサポートを受けながら、自ら改修を成し遂げた。お客さんいわく「隠れ家カフェ」の中のさらに隠れ家のような屋根裏は、かつての押し入れの上部。部分的に梁を見せた天井やボンドを塗り込めた壁、じょうろを利用した電気のカサなど、こだわりとアイデアが随所に。
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