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自らの身体からコンピューターや映像テクノロジーまで様々なメディアを使って表現する美術作家、高嶺格。学生の頃からマルチメディアパフォーマンスグループ、ダムタイプに関わり、パフォーマーとして出演するほか、バットシェバ舞踏団(イスラエル)のオハッド・ナハリンや、Noismの金森穣など、演出家、振付家とのコラボレーションも手掛ける高嶺氏が、昨年から、アイホールの‘Take a chance’シリーズにおける舞台作品の演出にも取り組んでいる。3年間のシリーズで展開される高嶺格演出による舞台作品は、京都造形芸術大学の授業で学生とつくられる予定である。今年も7月20日、21日には京都造形芸術大学、9月にはアイホールにて発表されることが決まっている。

今回のインタビューでは、学生と共につくられた初の舞台演出作品が、どのようなプロセスでつくられていったのか、また、舞台や美術作品、ライブパフォーマンスなど多岐にわたる表現活動の根底に流れる高嶺氏の真髄に迫る!

interview:雨森信


雨森:初の舞台演出作品となった『もっとダーウィン』の第一部の作品は京都造形芸術大学の授業を通して学生といっしょにつくられたんですよね?

高嶺:そうです。順序で言えば、まずアイホールのプロデューサー、志賀玲子さんから「アイホールの‘Take a chance’という枠で、舞台の演出をやってみませんか?」という投げかけが先にあって、その時点では、学生と創るという話ではなかったんです。正直なところ、アイホールでの公演を受けたはいいけど、人を集めるのも、集まった人が練習する場所を探すのも大変で、実際にどこでどうやって創っていくのかという物理的な問題もあって。それでちょうど、京都造形大で授業を持っていたし、授業でつくったものをベースにして、そこからの発展形でアイホールに向けて仕上げる、というつくり方にしたらどうかと。学生にとっても、学外で発表するいい機会になるかなと思って。

雨森:では最初にアイホールの話がきたときは特に学生といっしょにという条件ではなかったんですね。

高嶺:そうなんです。なので最初にそのことを志賀さんに話したときには、学生レベルを求めているわけではない、と反対されたんですけど。「ぜったい学外にも通用する作品にしますから」って言って、納得してもらいました。
その頃、前後して松室美香さん(二部に出演したダンサー)と話をする機会があって、「私もいっしょにやりたい!」って言われて。4月にはすでに 一部と二部の二本立てしましょうかって話になっていました。一部『海馬Q』は学生といっしょにつくったもので、二部の『Miss rim』は、もとNoismのダンサーの松室さん、メディアアーティスト前林明次さんとのコラボレーション作品です。

雨森:ではまず一部の方からお聞きしたいと思います。約3ヶ月でしかも、学生と一から舞台をつくり上げるというのは、かなり大変だったと思いますが。

高嶺:もうね、最初はぐちゃぐちゃでした。。。授業始める前にある程度プラン立てようって思ってたけど、去年の2月から3月にかけてずっと忙しかったのもあるし、どうスケジュールを立てていったらいいのか全然分からなかったから、とりあえず授業が始まってから、その場その場で考えていったんです。最初の授業で、「僕は大人数の舞台演出をやったことのない人間で、だからほんと試行錯誤で進んでいくと思うし、なにがどうなるかはまださっぱりわかりません。みんなの意見も取り入れながらいろんなことを実験してみたいと思っているので、一緒に創っていくって感じで進めていきたいです。」というような話をして。

雨森:何人くらい生徒さんは集まったんですか?集まってきた学生は舞台に興味があった人たち?

高嶺:実際に僕の授業を登録してちゃんと履修した生徒は4人、5人くらいしかいなかったんですけど、聴講でいっぱい来て、単位とか関係ない学生が主軸でした。だからおもしろくなかったらどんどん離れていくわけです。最終的に何人になるかっていうのは全然見えない状態。途中で来なくなった子もいれば、おもしろいって噂を聞いて途中で入ってきた子もいて。減ったり増えたりしながら、5月の終わり頃に17人でいきましょうって決まりました。学科としては映像舞台芸術学科というところで、二回生が一人、あとは三、四回生だったかな。学科には、照明とか音響とか含めていろいろな授業があるので、技術的にデキる子もいて、結構、スタッフワークも学生に任せて進めることができました。

雨森:どんな授業をしてたんですか?

高嶺:まず最初に、他の先生はどんな授業をやっているのか、学生に聞いたんです。例えば、太田省吾さんの授業では、ずっと歩くってことをやってます、と聞いて、じゃあ、みんなで歩いてみましょうか、と。「先生、パクりじゃないですか!」って言われながら (笑) 。
あとね、即興で動いてもらうっていうのを結構やりました。まず、最初は、僕は彼らのことを全然知らないので、彼らが一体どんな人間なのか、どういうことに興味があって、実際にどういう能力を持っているのかというようなことを知るところから始める必要があった。即興で動いてもらうことはその辺りを知るのにすごく有効でした。

雨森:それぞれの能力とか持ち味をみながら作品の内容を考えていくという感じ?

高嶺:そうですね。なんだかいろいろやってもらっているうちに、おもしろい瞬間っていうのがどんどん見えてきて、この子だったらこういうことが出来るかなとか、こんな感じがいいかな、というようなネタだしをずっとやってた感じですね。6月くらいまではずっとそういうことをやってました。

雨森:授業はけっこう順調に?

高嶺:僕もまあいつもこんな感じやから授業中も私語が多くて、ずうっと喋ってる学生もいたり、よく言うと自由な空気、悪く言うと無秩序。それに対して僕も何も言わへんから、みんなずーっと喋ってる。その間に僕はその日にすることを考えてるんやけど(笑)で、だいぶ経ってから、「今日はいったい何するんすかって??」って誰かが言い出して、それで授業が始まる。集まりの悪い時もあるけど、それをあんまりとがめてもなあとか。。なんやろう、その辺りも難しかったですね。ある時はいっぱい来ていて、ある時はすごい少なかったり。シーン決めて練習しようってことをやろうとすると全員そろわなかったら出来ないしね。だから毎回来たメンバーをみて、その日にすることを考えるんです。ほんと授業も即興っていう感じで。

雨森:全体が決まってきたのはいつ頃ですか?

高嶺:いやあ…4月から週二回の授業を通してネタだしをずっとやってきてたけど、6月末あたりになってもそれが最終的にどうなるのか、僕自身もイメージ出来てなくて。このシーンおもしろかったとか、あの動きは使えるなっていうのは頭の中になんとなくあるけど、全体の構成についてはまだ何も決まってなかったんです。授業でやった即興をビデオで撮っていたので、家ではそれを見直しながらずっと考えてはいたんですけどね。すると、学生の方がどんどん焦りだしてきて。「この先生、演出初めてって言ってたけど、ほんまにできるんかな?」ってね。すごいプレッシャーで追い詰められてましたね(笑)。
全体が決まったのは、学校公演の二週間くらい前かな。ある日、やっと完成したシーン表を持っていったんです。ものすごい考えたから、音のきっかけとか全てはっきり頭の中にあって、そのプランを最初からざーっと全部説明していったら、学生が「この人、ちゃんと考えてたんやー!」って(笑)。

雨森:舞台上での即興のシーンもあったんですか?

高嶺:ありますよ。ダンスのシーンにも、セリフの中にもあります。一応の基本ラインはあるけど、その場で思いついたことをライブでどんどん入れてもらったり。最初のシーン、暗いところからだんだん明るくなっていくシーンとかあれはもう完全に即興で、ラストのほうも2分くらいの完全即興があります。動くときの導線なんかも決めなくても大丈夫かなっていうところは任せてました。

雨森:完全にシナリオを決定して指示するんじゃなくって、それぞれの演者がその場で考えて即興でアイデアを盛り込んでいくっていう方法はダムタイプの手法と似てますね。演出家がすべて決めるのではなく、演じる側もいっしょに考えるという意味で。

高嶺:ダムタイプは最終的には全部決めていたので、舞台上での即興はほとんどなかったと思うけど、演出家が一人ですべてを決定するということではない、という意味ではそうですね。 

雨森:プロのパフォーマーではなく、学生とここまでの完成度までいけるっていうのはすごいと思いました。

高嶺:それは逆説的なのかな、プロっていうか経験を積んだ人やとこんなふうにはならへんかもしれない。舞台作品を観てよく思ってたのは、ほんとはこういうことがしたかったんだろうけど、みんなの力量が足りないからここまでしか出来なかった、っていうような、理想と現実の間にギャップが、見えてしまうつくり方はしたくなかったんですよね。プロやったら本当はここまでいけた、っていうようなのが見えたらいけない。

雨森:素人(学生)っていうのを意識させない舞台として仕上がっていたのは、やはり全体を構成し演出している高嶺さんの力だろうなって。出演者の持っている能力や魅力を引き出して、それぞれが活かされるように考えられてるんだろうなあと。

高嶺:一人ずつ全員、ソロのシーンというのは無理だけど、ちゃんと全員が一回ずつは顔の見えるシーンをつくれたらいいなあと思ってつくってました。
例えば、特にダンスができるわけでも演技がうまいわけでもないのに、黙って何もせずにぼーっと立っていると、すごい不気味な空気をかもし出す子がいたので、無言ですごい間の悪い感じの、5分くらいのシーンをつくったりね。そんな、普通は舞台に載っからないような変なシーンを、どうやって舞台に載せられるか?を考えるのが、一番楽しいんです。音楽や照明の前後のバランスをあれこれ考えて、こういうふうに入ってくればいけるんちゃうかなー、とか、そういうところで僕も楽しんでましたね。
あと、舞台作品を演出することになって考えたのは、身体っていうのはノイズの固まりであるということかな。訓練を積んだダンサーであっても、その人の容姿だとか動きの癖によって、そうではない全く反対のメッセージを発してしまうことがあり得るでしょ。どうせノイズが入ってしまうのであれば、むしろ、意味をどんどん裏切っていくような、一瞬前に発生した意味を次の瞬間には裏切っていくみたいな。そういう意味の「幅」によって構成したほうがおもしろいんじゃないかなと思って、そういうつくり方をしてみようと。最終的に12シーンに分けたんですけど、本当は、もっともっと単位が短くできたらよかった。理想の話ですけどね。即興でみんなに動いてもらってる時っていうのはまさにそんな感じに僕は見えたんです。意味が見えかけた瞬間、すぐ別の意味がかぶさる。そうやって、ものすごいスピードで意味の打ち消し合いが起こっている。ああ素晴らしいと思ったけど、それを人為的に構成するっていうことが、あまりにも膨大な作業で、呆然としましたけどね。

 

  

雨森:また、今年も学生と新たに舞台作品に挑戦してるんですよね。

高嶺:今年もありますよ。アイホールの‘Take a Chance’は、三回の予定なのですが、三回とも全部違うやり方でやりたいなと思ってます。一回目はどうしたらええんかわからなくて手探りやったけど、なんとなく、ダンス的な作品になった。今年はまた新たなことにチャレンジしてみたいなと。今回はセリフものが多くて、去年よりもずいぶん、いわゆる「芝居」に近くなると思います。芝居なんてやったことないし、今年もかなり大変です(笑)。

雨森:今年の公演も楽しみにしてます!

2006年6月


 

【公演情報】
京都造形芸術大学・映像舞台芸術学科
高嶺クラス発表公演
「アロマロア エロゲロエ」
2006年7月20日(木) 午後7時開演/21日(金)午後2時開演 (開場は開演の15分前)
at:京都造形芸術大学 Studio21
客席が少ないため、完全予約制となっています。
御予約/公演詳細は、下記のアドレスから。
http://aro-ero.com/

アイホール公演
2006年9月2日(土) 午後7時開演/3日(日)午後3時開演 (開場は開演の30分前)
御予約/公演詳細は、下記のアドレスから。
http://www6.ocn.ne.jp/~aihall/