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藤山寛美さんというのは、やはり新喜劇の方にとって指針であった訳でしょう?その寛美さんがわりと若くにお亡くなりになって、実際どういうお気持ちでしたか?寛太郎さんがお幾つの時になりますか?

あれは平成2年でしたから、僕が30ちょっと出た位ですね。僕が藤山先生と一緒に過ごさせて頂いたのはちょうど大学出て10年間だったんですよ。僕も後悔しないためにと思って、常々から先生にくらいついて学ぶという作業を必死でやってはいたんですけど、誰しもあんなに早く亡くなると思ってへんかったから、もっと盗んで学ぶべきだったなあという思いと、今まで学んだ蓄えの中からやっていくのかと思うと心もとないという思いがありました。けど、あのまま生きておられたら、ずっと頼ってしまっていた自分もあるだろうとも思いましたね。そうすると結局長生きをされていたら今の自分はなかったのかも知れませんし...。

芸というのはいくら盗みたくても、キャリアも年齢も持ち味も個性も違う方のものですから、心に芸を焼き付けることが出来ても、現実はむずかしいですよね。また、たとえ模倣出来たとしても、真似た方以上の魅力ではないし…。

そうですね。抱いているものをお芝居で見せようと思ってもチグハグであったりするのはそういうことですね。本公演とかで藤山先生がやっておられた役を頂いたりした時は、自分の頭の引出しの中からあの時藤山先生こんな動きしたな、とかが実際残っている訳じゃないですか。所作や間においてもこれに縛られる時っていうのは確かにありますねえ。ここは美味しい所やとかね、その打算計算が働いてしまうことが表に出ることもあれば裏に出ることもあります。ゲストの方が時々出て下さることがあって、藤山先生のされた役をされるのを見ると、藤山先生の残像を持つ僕にはこのやり方出来ないなっていうか、ああこうしたやり方もあるのかとか勉強させられたりすることがありますね。反対に、ここはもう少しためて欲しいとか思ったりしますが…。この間、テレビの水戸黄門の撮影があったんですよ。

水戸黄門に出られたんですか?オンエアは?

4月12日からスタートする第12話で、6月最後の週か7月最初の週かの月曜日と思うんですがね。情けな〜い侍の役なんですけどね。映像がまったく初めてなんでね。

初めてなんですか?

そうなんですよ。その時に監督に指摘されたのが、いつも舞台にのっていて、心の動きを表現しなければいけないという動きが映像にのった時には凄く不純物として出てくるんですよね。

舞台と映像は表現の仕方が全然違いますものね。映像でいい人が舞台を見るとガッカリだったり、逆に舞台のいい人が映像で見ると大袈裟すぎて動きがうるさかったりするのはよくある話ですよね。

映像は意外と経験のないような人が無垢で良かったりしますものね。僕も出来るだけ、舞台でしみ込んだものを殺ぎ落として殺ぎ落としてやったつもりなんですが、ついつい出るんですよねえ…大芝居が(笑)

(笑)

でもね、監督さんが気持ちは一緒でしょ、っておっしゃって、そう言えばそうだなあ、と思ったんですよ。舞台の場合、気持ちを忘れて、そう見せるための表現にとらわれてしまってる場合も舞台は多々あるなあ〜と。

見せるという技術の分にとらわれてということですね。

そう。で、そっちの方が実際必要だったり大事だったりするじゃないですか。

こういう心を伝えるという作業ですよね。

そうです。なんぼ思いつめて目を潤ませておっても3階のお客さんにわからへんかったら何してんねんな、寝てんの?って感じですものね。

映像の場合は感じた表情を中に入れていった方が良い表情になるのかも知れませんね。

そうです。頬っぺたがピクッと動いただけでも心の動きが伝わるのが映像ですからね。でも、どちらにしても、心の動きからスタートしてるのは同じで、舞台の場合はそれを伝えるデフォルメがある訳で、舞台でつちかった経験が問われる訳ですが、あらためて、そうしたことを実感しました。

松竹新喜劇は下座音楽が使われていたり、和服での時代芝居も多い訳で、そうした点では所作一つにおいても色んな技量が必要とされますよね。それはそれで別に勉強されてこられた訳ですか?

現代劇と時代劇が交互にありましたから、僕らは楽屋着も普段浴衣でしょ。あれは普段から着物着ることになれるというか、あと日本舞踊も所作事として覚えなアカンと思うからやってますけどね。

お稽古やってはるんですか。流派はどこですか?

僕は若柳流です。おとなしそうでしょ。若柳っていうとしなやかな感じで(笑)

私は松竹新喜劇の方は本当に凄いと思いますよ。そうした現代、時代に対応する技量を磨きながら、むずかしい喜劇も出来るんですから。喜劇はむずかしいですよ。松竹新喜劇には最近とみに歌舞伎でも詠われている上方の匂いが大切に引き継がれていますよね。新喜劇の方のお稽古の姿勢や、スタッフへの心配りもとても好感を持ちます。

まあ、僕だけじゃなしに、そうすべきもんだと思いますしね。また、そうしたことを大切にせえよ、という教えが確かにずっとあると思います。当然ですが楽屋にいらしたお客さんも自分のお客さんでなくても劇団のお客さんですし、出前を持って来て下さる方にも挨拶せえよ、と教えられて来ましたからね。

そうですね。そうした人の温かさを表現されているんですものねえ。その寛太郎さんが出演されている曽我廼家喜劇の復活を目指した曽我廼家喜劇「山椒の会」(大阪市助成公演)が、この度、大阪府の舞台芸術奨励賞を受賞しました。パチパチパチ(拍手)

ありがとうございます。いや、おめでとうございます。

かくいう私も制作スタッフの1人なのですが(笑)、あれは、誰がどうのと言うのではなく、舞台全体に頂いた賞ということで、参加しているスタッフ皆が、演出家の米田さんの呼びかけに賛同し造りあげられた公演なので、嬉しい受賞でした。今年も9月の11日(土)12日(日)にミナミのワッハホールで開催させて頂きます。7月にはチケットぴあでもチケット販売をすることになっています。

今度は曽我廼家の名前を継いだんで出るのは僕だけなんです。いよいよ頑張らなと思おてます。

寛太郎さんは外部でも益々ご活躍ですが、今年の12月は新歌舞伎座でも主演のお芝居があるそうですね。

そうなんですよ。大阪でお芝居するのは9月の山椒の会とこれだけなんですよ。またHPでもスケジュールをだしておりますので、宜しかったらご覧下さいそれで機会があれば舞台をご覧頂けたら有難いですね。


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