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澤:これは、いいなあっていうか、アフガニスタンでは。家っていっても家じゃないんですよ。テント暮らし。幸い僕たちは一人に一つテントを与えられたんですけど、ポーターの人達はテントじゃなくて外で普通に寝ている。「僕たちはなんてラッキーなんだ。あの人達かわいそう」って最初は思った。僕たちは一人にもなれるし、寝袋にだって入って眠れる。だけど、夜中にトイレに行くために外にでると、もの凄い大自然で、空なんかも星がほんとにきれい。それで、日が経っていくうちに、外で寝ている人達がだんだん羨ましくなってくる。自分が逆に閉じこめられているような感じがしてくる。今まで自分のスペースを確保していたと思っていたのが、実は自分を閉じこめていたんじゃないかっていう風に。

グラフでよく見かけるというと失礼な言い方になるかもしれないが、よく一緒に時間を過ごす人に澤さんという人がいる。いつも遊牧民のように移動を続けながら、世界中で起こっている面白いことを追いかけて、自由に楽しそうにやっている人。少なくとも僕にはそう映るし、憧れでもある。

澤:弱い子供で、欲望だけはあって。強い刺激を外部に求めるようになった。今の状況を考えてみると、僕は、音楽はできないけど音楽は必要だからミュージシャンと一緒に何か作っていくとか、絵は描けないけど、アーティストと一緒に何かやって自分の環境を拡げていくとか。昔、よしもとばななさんに言われたことがあって、彼女は出不精だけれども、こうして僕が飛び回っていることで、自分の代わりにこういうことをやってくれている人がいるから自分はやらなくていいんだって。そうして自分を受け入れることができたって。最初言われたときはピンとこなかったけど、よく考えると、僕の人生もみんなにやってもらっているっていう感じがする。そうして、やっと自分の欲望が満たされる。自分が受け入れられる。

「移動すること」「記録すること」という、そんな澤さんにぴったりとも言える企画で今回もお世話になる。目的のために移動するのではなく、移動することが目的。様々なヒトやモノやコトと出会いながら環境を模索し作ってゆく。僕たちの旅もまた続く。

 

radio graf  guest: 澤 文也

 


イベント情報
[Visions on the Move: graf media gm]
詳細は、www.graf-d3.com/gm


 

澤文也(記録人)

1964年、大阪生まれ。ロンドン大学School of Oriental and African Studies医療人類学修士号取得。幼年期に大阪万博や大阪国際空港で刺激を受け、中近東を皮切りに10代から観光旅行をはじめる。近年はバンコク・ドンムアン空港をハブ空港に移動しながら面白いことを観察し、音や写真、旅行記やインタビューとして記録を残し、英日のメディアや他人の作品でたまに発表する。

近年の主な活動
東南アジアに潜む面白い作家たちをロンドンで紹介する展覧会『Assorted Asian Tigers(アジアのトラの詰め合わせ)』(PROUD CAMDEN GALLERY, LONDON)を企画。飛行場を兼ね備えた架空の航空会社を作り上げ、辿り着くことのない遠くを想うグループ展『ROOM AIR』(伊通公園, 台北)を細木由範と共同企画。grafでのキュレーターズ・パラダイス第2弾として、散らかしっぱなしの人生の破片を1つの部屋に集めたようなグループ展『my room somehow somewhere』を企画。『JAM Tokyo-London』展(ロンドン・バービカンアートギャラリー&東京オペラシティギャラリー)アドバイザー。奈良美智『S.M.L.』展(graf media gm、大阪)のL部屋白壁に旅日記をもとにした作り話を提供。
日本が誇る老若男女、玄人素人の作家28名のポートレートを集めた本『REFLEX』(Trolley Books, UK)をマーク・サンダース、都築響一と共同編集。よしもとばなな・奈良美智の本『アルゼンチンババア』に英訳で参加。2ヶ月におよぶアフガ二スタン領の秘境ワハン回廊への旅から生まれた本『インシャラ』(鶴田真由著)の記録写真・付録CDプロデュース。ブライアン・イーノの日記本『A YEAR』日本版企画。
吉本新喜劇ロンドン公演を現地プロデュース。映画『ナビィの恋』の英字幕・テーマ曲(マイケル・ナイマン&登川誠仁)担当。坂本龍一オペラ『LIFE』と地雷撤去キャンペーン『ZERO LANDMINE』でインド・ヨ−ロッパ制作担当。
インド・ダラムサラにあるチベット占星医学研究所とダライ・ラマ法王の侍医故テンジン・チョダラクの医院にてフィールドワーク。ダライ・ラマ法王来日のインタビュー、歓迎委員、Jubilee2000プロジェクト。
ミュージシャンたちと出掛けた音のフィールドワークの副産物としてCDに写真や音を提供する。タルヴィン・シン(OK, TRAVELLER)、坂本龍一(IN THE LOBBY AT GEH、『ブラジル・ボックス』)、マイケル・ナイマン(MICHAEL NYMAN FOR YOHJI YAMAMOTO)、パルス(PULSE)。クラフトワークやアート・リンゼイの訳詞やビヨークの日本版DVDにテキストを提供。
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