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維新派は観るところがたくさんある舞台だから、人によって、感じ方が全然違っていい。とにかくきれいやな〜って舞台空間にひたるという人もいるし、舞台美術や衣装、ユニークな役者たちの動きを目で追っていくのが楽しい、という人もいる。じゃあ、自分自身はどうなのかと言えば・・・言葉の圧倒的な美しさにいつも魅了されているのだ。チラシやポスターを制作するという仕事がら、松本雄吉さんの台本を早い時期に手に入れることを許され、それを読み込んでいく幸せにひたることができる私は、舞台を一度見ただけでは理解しきれない言葉のカケラをたくさん拾い集めることができる。『nocturne』の50ページを越えるぶあつい舞台設計図とも呼べる台本を読みふけっていくなかで私が迷わず、ラインマーカーで印をつけたのが、メガネ少女(=春口智美)のセリフ、「アメアガリ ミズタマリ ツキアカリ ヒトリキリ」・・・このセリフひとつで、今回の『nocturne』をすべて語ってるような気がした。実際の舞台では、主役のカナエがひとり舞台中央の水溜りに立って、一語、一語、切るようにセリフをつぶやく。すると、背後からチャポン、トポン〜と声が広がっていって、水の精たちがはしゃぎだすのだ。「みずんこ、つぶきち、落ちて、撥ねて、でんぐり返って、チャポン!」。もうひとつ紹介すると、6シーン目に出てくる“ずいずいずっころばし”の逆さ歌。これまたジャリンコたちが遊びで歌うのだけど、“ずいずいずっころばし”をローマ字で書いて、それを反対からたどって歌うのだ。奇妙な音が連続する無国籍な遊び歌(もし、公式パンフレットを手に入れた人がいれば、P11にその歌詞を転載している。声に出して歌ってみるとオモシロイ)。他にも、たとえば、4シーン目の“なみおと”には、日本中の“水”に関係する地名を次々に読み上げていくシーン(みずま、みかみ、みなみ、みのみ、みとみ、いなみ、かんなみ・・・と続く)、が出てきたりして、ああ、島国日本はこんなにも水の恩恵を受けて育ってきた土地なのかということを実感する。そう言えば、松本さんにあるとき、「やっぱり逆引き辞書とかを使って、韻を踏んだ言葉を探しているんですか?」と尋ねたら、「うーん。それも使うけど、クロスワード辞典がおもろいんや。5文字で、真中だけが“ま”のつく言葉・・・みたいなんが見つかるしなあ」と答えてくれたっけ。
喉をうるおす主人公のカナエ(春口智美さん)。(写真/福永幸治)
屋内公演はどうでした?っと主人公カナエを演じた春口智美さんに聞いてみると「・・・やっぱり、いつもとは全然違う雰囲気。最初の3日間は、めちゃめちゃやりにくかったですよー」。なるほどね。劇場では、客との距離感が違うし、見る姿勢も全然違う。そして、やっぱり客層も違ったりする。でも、そんなことは全部わかったうえでの新たなる試みが、『nocturne』なのだ。東京でどうやった?屋内ってやっぱり、スケール感ちゃうかった?・・・大阪に帰ってきて、いろんな人にいろんな質問をされたけど、最終的には、どこにいても、維新派は誇らしいまでに維新派であるなあ、と私自身は思うのだ。室生でも、犬島でも、アデレードでも、アテネでも、台風で屋根が吹っ飛んでしまう野外劇場でも、そして、今回のような空調のきいた新国立劇場でも・・・。夜空の月が変わらぬようにね・・・!新国立劇場プロデューサーの井上 桂さんは打ち上げの最後にこう締めくくった。「新国立劇場で再演をしてほしいという声もあるのですが、きっと、再演なんてしないのが維新派のいいところでしょうから。みなさん、いい旅をしてきてください。そして、また、いつの日か帰ってきてください」。
来年からは、ヨーロッパ公演が待っている。ええ具合にお酒のまわった松本雄吉さんはやんちゃな表情に戻ってまわりのスタッフたちに話している。「おもろいことやろーで、なあ、次も!」。