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せんせって、素人のお弟子さんとお話するの、お好きですよねぇ

菊生「そう!あのね、お弟子さんていうのはね、いいかい?粟谷菊生商店の作品なんだよ。だから、お弟子は自分なの。お弟子は素直だから、一番自分の悪いところも似ちゃうの。だから、お弟子さんの芸を見て‘あっ!’と自分で反省するところがあんだよ。(玄人は)もう、ある程度になったら、相手の悪いことは言わないんだよ?競争だから」

競争なんですね?

菊生「うん。競争だから言わないんだよ。だから、六平太先生が‘相手に物を言わそうとしたら、相手を怒らせるんだよ’っておっしゃったの。で、アタシは、ああそうだと思って、亡くなられた先輩の友枝(=友枝喜久夫/ともえだ・きくお/シテ方喜多流)先生に、‘友枝先生、こないだのあれは結構でしたね、しかし、あそこんとこでね、ああいうふうに入ってったんじゃぁマズいと思うんですよ’っつったら」

っつったら?

菊生「‘そうか!菊ちゃんありがと’って。‘君だけだ、見てくれたのは’って、こうなんだ。こりゃ話が違うなと思ってたらね、2、3分過ぎたらね、‘だって、オマエはこの前ねえ!’だって(笑)」

あははははは(笑)、逆襲されたんや〜

菊生「‘こんちきしょー!’って思ったんだろうね」

根に持ってはったんや〜(笑)

菊生「そいで、俺がその話をある人に話したら、『能楽タイムズ』(=能楽業界紙/能楽書林発行の月刊紙)に出しちゃったんだよ」

うっ

菊生「あれから、聞けなくなっちゃって」

(笑)いやぁ、でも、相手をわざと怒らすっていうのは、実は私もたまにやってしまいます。どうしても本音を聞いとかないかんときがあったりして。それに、具合の悪いとこは、ご本人も大概気づいてはると思うんですけど、誰も言わないじゃないですか。でも、敢えて他人から言葉にして言われないとダメなときってあると思うし…

菊生「お酒、もうちょっと飲んでもいいですか?(笑)」

ぶっ(笑)、いいですよ(笑)

菊生「えへへ(笑)」

 

 鱧(はも)が出てきた。
 夏ですなぁ…。

 

菊生「俺の葬式の時は賑やかだと思うよ」

あ、またイキナリ何を言い出さはるんですか。そりゃまぁ、老若男女、もうすんごい人がいっぱいで賑やかでしょうねぇ

菊生「ほんとに。ウチの女房がそう言うんだもん」

奥様といえば、せんせ、前に『阿吽』(=<粟谷能の会>の会報)に書いてはりましたよね(笑)

菊生「あ、読んでくれた?女房にね‘死ぬのは、ちっとも怖くはないが貴女に逢えなくなるのが淋しいし、イヤだなあ!’って言ったんだよ。みんな言わないけど、こういうことは、ちゃんと素直に言葉に出して言わなきゃだめなんだよ」

んで、奥様はどない言わはったんですか?(笑)

菊生「‘その科白(せりふ)、どこで覚えていらしたの?’って言うの。何秒か<間>を置いて、‘それ何人におっしゃったの?’だって(笑)」

 


 ご本人の目の前では、<菊生先生>とお呼びしているが、実は蔭では<菊ちゃま>と呼んでいる。
 若手役者の間でも密かに<菊ちゃま>だ。
 大阪では、8月16日の大槻能楽堂自主公演能で『通小町』を演じ、来年、『鬼界島』を演じるのを最後にしたい、と<粟谷菊生>は思っている。
 いつまでも消えることのない舞台への情熱と、1日ごとに衰えを感じるという肉体の狭間で、<粟谷菊生>は闘っている。
 その苦悩を静かに語り出したかと思うと、必ず“オチ”が付いて、笑いに変えてしまう。
 「能は技術だ。能役者は職人なんだよ。お客さんにいろんなことを想像してもらうんだから」と<粟谷菊生>は言う。
 積み重ねてきた揺るぎない技術があるからこそ、その中から、紛れもない<粟谷菊生>の人間性がにじみ出てくるのだろう。
 <能>の芸とは、そういうものだ。
 盃を重ね、次第に饒舌になるミスター能役者、というか、能芸人<粟谷菊生>のお話は、もったいないので、続きは、新シリーズ<なにわ花かがみ>でお楽しみいただくとしよう。
 人間国宝による人間国宝の“顔真似”(←極似!)も飛び出して、何やらすごいことに。
 もちろん、芸の話も盛り沢山だ。