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エディアカラの楽園 —— 青い薄闇 松岡永子
 遊劇体の前作「残酷の一夜」は70年代、一軒の古い日本家屋での台風の夜の話、だった。わたしは時代性を強く感じた。
「エディアカラの楽園」は高校二年生の男の子の行動範囲(家を中心として通学路、公園、自転車で行ける海など)が舞台となっている。今回は地域性を強く感じた。
 架空の町が設定されているが、大阪南部の人間にはどのあたりなのかの見当はつく。主人公の通っている学校も。学校のある辺りのいかにも城下「町」風の文化的雰囲気。それと比べるとき感じてしまうだろう、家の「村」的閉塞感。ちらっと出てくる「本家」という言葉。本家筋の長男にかかる無言のプレッシャーも想像がつく。本家である以上、最低限の土地は維持していかなければならないのだろう。勤めの合間に父親が作業する畑。畦近くに一群つくってある菊の花。納屋にぶら下がっているタマネギ。
 直接には描かれていないそんな風景も見たことがある気がする。よくわかる。
わかった気がする。
 その分、自信がもてない。
 自分の生活してきた場所や時代に近すぎる。その皮膚感覚としてわかってしまうことに足を取られて、作品を見誤っているのではないかという不安がある。

 主人公は高校二年生のタカノリ。
 公務員で兼業農家の父。専業主婦の母。東京からふらりと帰ってきたフーテン(懐かしい言葉。死語ですね)の叔母。地区内は親戚でいっぱい。
 タカノリは小中学校では優等生だったが今の進学校では落ちこぼれている。
 学校帰りに喫茶店に寄る不良っぽい(喫茶店に行くだけで不良だったのだ。不良も死語?)同級生。留年生の彼は飲酒も性行為も経験済みで、その大人っぽさにタカノリは憧れと劣等感を抱いている。

 ある朝、タカノリの家の庭に行き倒れらしい死体が転がっている。警察の話では東京駅の入場券を持っていただけで身元不明。
「事件」はそれだけ。あとは「日常」という不愉快があるだけ。
 無邪気に自分の周囲だけを世界だと信じていた子供時代は終わりかけている。進学して知った、自分は特別優秀ではないのだという幻滅。田舎町の息苦しい狭さ。その中を満たす大人たちそれぞれのエゴ。それを当然の世間としてはまだ認められない若い自意識。

 水槽の熱帯魚は弱った仲間をつつく。なぜ弱い者を庇い助け合って生きていけないのか。なぜ弱い者を攻撃するのか。タカノリはボロボロになった魚をつかみ出す。魚は水のない場所で、死ぬ。
 水槽の内も外も矛盾のない安全な場所ではありえない。魚は苦しみながら生きているより死んだ方がよかったのか。それともヒレがボロボロになってでも生きている方がよかったのか。タカノリにはわからない。彼自身についても。ここにいることに息苦しさを感じるけれど、ここから出ても行くべき場所もない。どうすればいいのか、わからない。

「エディアカラの楽園」とは地球生命誕生直後、ほんの短い時間だけ存在した楽園。生命は原始の海を漂い、自分に必要なエネルギーは自分の体内で作り出していた世界。やがて他者のエネルギーを喰って自分のものにする生命が生まれる。弱肉強食の世界のはじまり。
 そんな話をタカノリにする少女も高校生。自分たちの住んでる世界が安全で矛盾のない楽園などではないことに気づき、これから出ていく社会の様相に怯える年頃だ。

 不倫をネタに教師を強請っていた友人は、台風の夜出かけてそのまま戻らなかった。死体が海に浮かんでいたという事実だけが残る。
 漠然とのしかかっていた死がはっきりとした形を表す。
子ども時代から大人へと、とまどっていられる時間も終わった。タカノリは受験戦争参加のために勉強を始める。

 明かりがとてもきれい。シンプルな舞台・白い背景に色々な光が入ることで場所や時間が変化する。
 全体のトーンは青。水槽の水のゆらめきや、背景に映る人の影も美しい。

 中央の台から降り、隅に行くことで退場を表す。能と同じ様式化された演出で、やや多い場面転換もすっきり処理していた。
 自意識がコロスとして、カエルのようなモノノケのようなモノとしてしゃべる。コロスの動きの様式性も舞台をくっきり縁取るのに効果があったのではないかと思う。

 ラスト。「庭に転がっていたのは東京から来た、この時代そのものだと思った」という言葉は現在から振り返っての感想でちょっと言い過ぎかと思うが、確かにあの時代「東京」は憧れの響きであり、地域社会を浸食するものだったと思う。
 現在でもその感覚はわかるのだろうか。


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