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永遠と引き換えても惜しくない一夜 西尾雅
月組トップスター紫吹淳の退団に用意された役柄は踊るヴァンパイア。運命の導きで一族の仲間入りを果たし永遠を生きる彼を追って、4つの時代でオムニバス展開する1本立て大作。宝塚屈指のダンサーである紫吹にクラシックやタンゴ、コンテンポラリーさまざまなダンスを踊らすため、時代を超え生き続けるヴァンパイア役を与えるとはナイスアイディア。永遠を生きるヴァンパイアに比す限りある人の命。そこに本公演でトップを譲る紫吹への愛惜を重ねる。永遠のトップであることはできない、けれども彼女の残す輝きは不滅だと。

タイプの違う6人もの振付家が起用されるが、とりわけ各時代を場面転換する素舞台の島崎徹が力強い。全作曲した吉田優子の旋律も耳になじむ。同じ曲を時代別にアレンジを変え、ゆるやかなフォークロアやビートの効いたロックで使いまわす。「ヴァンパイアを探せ」が、「ヴァンパイア相手の美女役を探せ」に変わる歌詞の言葉遊びも楽しい。クライマックスの第4話冒頭で、善悪チームに別れて掛け合うコーラスは宝塚ならではの統制とスピードで会場を圧倒する。

ミュージカルの重奏と歌舞伎のだんまりの同居に、宝塚伝統の和魂洋才がうかがえる。第3話でナチスからユダヤ人逃亡を助ける地下組織が、タンゴクラブを擬装、ヴァンパイア・フランシス(紫吹)はそのパトロンだが正体がバレ、店が停電で混乱に陥る最中にユダヤ人ダンサー・ポーラ(映美くらら)と叶わぬ恋を語る。明るい舞台のままナチス内部で親衛隊と突撃隊が対立し、ユダヤ人が逃げ惑うスローモーションの動きが影絵となってせつない恋を浮かび上がらせる。

巨大なLEDネットを吊り下げたCG映像が新機軸。小池が「ロミオとジュリエット」を翻案、外部演出した「PURE LOVE」で初めて使用したものだが、CG合成で僧院内部の宗教画や僧院跡、開花飛散する薔薇を映し出す。戦争に明け暮れる人類の歴史を俯瞰、ニューヨークの夜景からWTCビルの光が消え去る瞬間が心痛い。けれども、デジタル発光の映像は、ともすれば他の美術から浮き上がる。もっとも効果的だったのは本編ではなくサヨナラショーでの紫吹へのエール文字だったのが皮肉だ。(千秋楽と前楽にトップ就任以来の持ち歌で綴る約40分のショーがカーテンコールされた)

無実の罪で追われた中世の騎士が、バルカンの山奥に逃げ込む。深手を負ったフランシス(紫吹)を助けたのは、薔薇の封印を守りながら暮らすヴァンパイア一族の娘・リディア(映美)。彼女と恋に落ちたフランシスは、自分もヴァンパイアの一族となる決心をする。が、婚礼の儀式の途中、修道僧ながら彼女に横恋慕していたミハイル(彩輝直)は守るべき封印を解いて、みずから悪しきヴァンパイアに変身しフランシスに対抗する。不死のヴァンパイアもヴァンパイアには倒される。嫉妬で逆上したミハイルはリディアを殺し、封印の十字架を飾る五輪の薔薇も砕け散る。ミハイルは世界を支配するために、フランシスは元通り封印するために、飛び散った薔薇を集める2人の戦いが時を超えて続く。

いわば壮大なプロローグとなる第1話を受けた第2話は、宝塚得意のフランス王宮編。太陽王ルイ14世(霧矢大夢)の華やかさを妬む弟(大空祐飛)を利用してミハイルが政権転覆を画策する。見どころは、病気でバウ主演を降板し本作で復帰した霧矢と紫吹のダンスバトル。正確で俊敏な回転が冴える霧矢と雄雄しくかつ優雅に舞う紫吹のデュエットは、まさに咲き競う大輪の薔薇。

ミハイル扮する錬金術師があやつる交霊術そして宮廷内の乱れた男女関係(第2話)、フランシス属する十字軍の精神を継ぐテンプル騎士団とその隠し財産(第1話)、ナチス統治下の退廃した倒錯文化(第3話)など下世話ネタのてんこ盛りが小池らしい。僧院の再建と世界遺産登録に活動するNPO団体も登場(第4話)、流行にも目ざとい。

が、全編のクライマックスは世代を継承する第3、4話の連作。フランシスはリディアそっくりのユダヤ娘ポーラをナチスから救う。ポーラはフランシスに恋するが、フランシスは亡きリディアへの想いを捨てきれない。永遠の命などいらない、せめて一夜の愛をと請うポーラを拒否する。フランシスもポーラを愛してはいるのだが、共に歳を重ね、共に老いることこそ最上の幸せと信じ、不死の苦しみを彼女に与えることをためらう。

結ばれなかった2人の恋は、ポーラの孫ジェニファー(映美)とフランシスの出会いでついに成就する。ナチス時代からヴァンパイアを研究するマッドサイエンティスト(嘉月絵理)と共に血液製剤会社を興したミハイルが立ちはだかるが、戦いの末ミハイルは破れ、フランシスとジェニファーの愛は実を結ぶ。時間を超え、子孫を継ぐ恋。2人には何百年という年齢の差も時間の隔たりも関係ない。愛もまたヴァンパイア同様に時を超える。

新人公演主演を務め、難しいダンスを本役紫吹と拮抗した北翔海莉が本公演でも目に付く。4つの世界にまたがるため、生徒全員どこかしら見どころを用意できるのが座付き演出家の気配り。北翔はヴァンパイアに気づきナチスに通報する意地汚い浮浪者と爽やかなNPOリーダーの落差が新鮮。定評あるダンスだけでなく歌と芝居に成長がうかがえ、コメディセンスにも閃きがある。全編で要所を押さえたのは越乃リュウ。騎士を追う隊長、ルイ14世のお抱え作家モリエール、酒癖悪いナチス隊員、製剤会社の広告塔兼ボディガードの不良バンドと大活躍。ひとクセある役ばかりだが、ポーラにセクハラするシーンでも憎めないのは人柄ゆえ。


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■SF ■恋愛 ■歴史
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