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祭りは始まるのか 松岡永子
 DJボックス(のようなところ)に和田さんが入り、「始まるよ」と声をかけると舞台が始まる。
 和田さんに台詞がなく、音楽に専念しているためか、いつにも増して音楽がいい。たくさん歌ってたくさん踊る。歌もダンスもムダに上手い。過剰なまでのスタッフワーク、などという評価を軽々と超えてゆく。なぜ劇団なんかやってるのかわからないくらい、みんな多才だ。必ずしも、みんな芝居が上手いとは言わないが。しかし今回、すっきり見られた。ストーリーの枝葉が少ないのと、役者が一人何役もしないのも要因だろう。

 前回はまとまったもの作ったから今回は思いっきりやりますよ、と言ってたと小耳に挟んだから、ちょっと覚悟して行った(だって『仔犬大怪我』は3時間)。結果、2時間5分。彼らにしては頑張った短さ。でも、観客としてはこれくらいで丁度いい。2時間は限界なのだ。

「煉獄」と名のるシリアルキラー。子どもを殺し、手足を切り落として焼く。子どもはかわいそうだからその罪を焼き清めてやるのだ、祭りが始まる、という声明文。「煉獄」を追ううちに、刑事たちはもう一人のシリアルキラー「青空」の存在に気づく。インターネット掲示板「青空」のスレッドには殺人依頼が書き込まれ、名指しされた人物はみな自殺していた。
「青空」はメールやネットを使って人間の心を壊す。人間の心は簡単に壊れる。壊れた人間はもう生きてはいけない。
「青空」は3歳の時に両親を殺され、そのまま拉致監禁されコンピュータだけを相手に育った。生きるのに必要な知識は「3歳児タンを育てよう」のスレッドへの書き込みで覚えた。不必要な知識も。そんな風に、人々のむきだしの善意、悪意によって育ったから「青空」は人間の心がどうやったら壊れるのか、熟知している。世間に解放された「青空」は女子大生だ。自分を育ててくれた「人々」への恩返しに「人々」からの依頼を果たしている。

 インターネットは無意識に似ているかもしれない。あらゆる悪意、善意が混沌と存在している。全体に対して良いとか悪いとかいう判断をしても仕方がない。その混沌から必要なもの、役に立つものを掬い出して、意識へ取り込む。意識を構成していく。けれどわたしたちは、まだその方法を本当には確立していない。しかしもはやそれは現にそこに在る。

 一方、売春で生活している男と姉(実は妹)。彼も人を殺している。しかし彼は完全に無垢だ。彼の現実は奇妙に歪んでいる。思い込みによって現実の一部を排除、改変し、その中に引きこもっているからだ。それに耐えられなくなった妹は男を殺す。彼女に対して瀕死の「煉獄」(正体は刑事)は「お前の番だ」と言い、送り出してやる。
 「青空」に依頼し、正体に気づいていた友達は、「青空」のやり方を見せてよ、と言う。
「たとえば君が誰にも望まれず水の底にいる小さな魚だとして、けれど、ある日虹を見る…」と、世界とあなたは無関係に在って、そしてそれぞれ美しい、だからあなたが死ぬ必要はない、と語る「青空」。「ありがとう」の言葉を残して友達は死ぬ。いつも人を救うために言葉を使ってきた、殺すために使っていたんじゃない、と呟く「青空」。
「青空」の死を明らかに示した方がいいかどうかは、好みとしては微妙なところ。

 祭りは終わったか。始まったのか?

 わたしたちはスイッチをいれ、画面の向こうで祭りが始まることをわくわく期待しながら眺めているのだと「青空」は言う。
画面の向こうは自分とは別世界だから、安全地帯のこちら側から、優越感を持って同情してみせたり、したり顔で批評したり、憤ったふりをして自分の正義を確認して安心したりする。わたしたちが毎日、ワイドショーやニュースショーを見てやっていることだ。

でも、本当にここは安全地帯か? 画面の向こう側と切れて無関係に存在してるのか?

 舞台上の事件に現実に起こっているさまざまな事件の細部との一致を探るのは無意味だ。しかし、もっと根源的なところで現実の事件との(あるいはむしろ、「一般」とか「普通」とか「世間」との)類似を見る。閉じこもりも、心の操作も、自分勝手な救済意識も、わたしたちから切り離されて遠いものではない。ただ画面の向こうに追いやって閉じ込めたつもりでいる。
そのこと自体が、閉じこもりであり心の操作であり自分勝手な優越意識の持ち方だ、と気づかないふりをしている。
気づかないふりができなくなる時。それが祭りの始まりであり、本当の終わりの始まりなんだろう。

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同公演評
死に向かって疾走する生 … 西尾雅

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