log osaka web magazine index
WHAT'S CCC
PROFILE
HOW TO
INFORMATION
公演タイトル
パフォーマー
会場
スタッフ・キャスト情報
キーワード検索

条件追加
and or
全文検索
公演日



検索条件をリセット
バイタリティ兼ね備えたロマンの復活 西尾雅
元倉庫の劇場内は天井が高く夜は冷え込むゆえ、客席には毛布が用意されているが、「なつざんしょ...−夏残暑−」のタイトルどおりひざ掛けなど不要、季節はずれの熱気が舞台から押し寄せる。そもそも、99年7月にOMSで初演した作品の再演。ほぼ10年を経たテーマは少しも古びておらず、現代に充分通じる。同じキャスティングに役者の成長ぶりがうかがえるのも楽しい限り。

開店前の屋台、その腰掛に倒れこんでいるサラリーマン・目白(前田晃男)と心配げに彼を見守る同僚2人(鈴木こう、阪上洋光)。目白は営業のノルマ達成もならないうちに日射病でダウン。が、部長(内藤)、課長(や乃えいじ)からの風当たりは当然厳しい。路上で部下から業務報告を受けた部長は、目白以外の部下の労をねぎらうべく屋台の親父(荒谷清水)にビール等を注文をするが、準備中を盾に親父はそれを拒否。

埒が明かないと悟った部長一行は中華料理店に向かうが、残された目白ら3人の前に、謎の姉妹2人(重定礼子、中津美幸)や宝くじ売場の販売主任、それを買い求める一団が現れて大騒動となる。日射病で朦朧とした目白が口走った夢を、偶然出会った姉妹が夢=宝くじと誤解し、勝手に宝くじを目白の金で購入したのが騒ぎの発端。購入順序を守らぬ姉妹の買い方が人々の反発を買ったのだ。

姉妹の正体がわかる。船長の父の借金を返す最後の賭け、それは沈没船に眠る金塊を引き上げること。そのために沈没現場を知るシャチという男を彼女らは探していたのだ。それを聞いていた屋台の親父が、自分こそ実はシャチ本人と正体を明かす。宝くじから本物のお宝の現場へと、得意の人力で装置が大きく転換し、舞台は動く。

伊豆の港町、漁港近くのスナック。姉妹の父親が所有する船・楽勝丸は今や旧式で、燃料やエサ代にも事欠き漁に出られぬ有様。乗組員はビールを注文する金もなく管を巻いている。行方不明の船長に代わって乗組員に借金を返せと詰め寄るのはヤクザ風の金融業者(木村基秀)と姉御(岡ひとみ)そして同じく融資元の漁協組合長(友寄有司)。そこに颯爽と戻って来た姉妹と親父(シャチ)そして彼女らについて来たサラリーマン3人組。

楽勝丸側の狙いは、借金の担保にされた船を取り戻し、燃料を購入して出港すること。親父が発見したという沈没船の虚実をめぐり、借金取りと楽勝丸側の駆け引きは二転三転する。宝くじの当選確率の低さと同様、金塊話が疑わしいのも当然。次々現れるあやしい人物の証言で混乱は増し、乗組員すら沈没船を信じず離脱していく。

が、迎えたのは意外やどんでん返しのハッピーエンド。終わってみれば二重三重に仕掛けられた罠に百戦錬磨のヤクザすらころっと騙されたってわけ。借金返済をまぬがれた楽勝丸は悠々大海に漕ぎ出す。けれど目的は、幻のお宝探しなどではなく、海に泳ぐ本物の魚の捕獲だ。宝くじ当選や沈没船の金塊引き上げなど不確実な話ではなく、本来の仕事を着実にこなすこと。実はそれが金儲けの一番の近道だったのだ。

前半、宝くじをめぐる狂躁にプロレス投げ技を連発して観客を爆笑の渦に巻き込み、後半は鮮やかな詐欺師の手口をウェルメイドの戯曲で見せる。海に繰り出した漁師たちは、悪徳金融業者をも出し抜くピカイチのワルだが、海を戦場と決めた彼らの生き様は痛快。万歳ならではのバイタリティあふれる集団劇と巧妙なピカレスクロマンの2つが一度に楽しめる。

悪い奴らより問題なのは、煮え切らない目白たちサラリーマン3人組の方。漁に漕ぎ出す勇気も、悪に染まる覚悟も持てぬまま屋台でグチをこぼす。無茶なノルマを課していた元勤務先の景気も実は悪く、上司らも退社して詐欺に加担、ついには逮捕される。けれど決断力と自覚があるワルの方が、目白よりはまだまし。決定を先送りし、いつまでも悩み続ける目白は、ナイーブな悩める態度に終始するだけ、より始末が悪いといえる。

オープニングとエンディングは同じ開店前の屋台。すべては、目白が暑さゆえに見た白昼夢だったのか。現実と変わり映えせず、夢の中でも結局は決断しないままの自分。おそらく、目白は同じ歯がゆさをこれからも繰り返すことだろう。私たちもそれを他人ごととは思えない。

前々回公演(07年11月)「大胸騒ぎ」は、02年2月に永盛丸プロジェクトとして初演した作品の再演。新作「ジャングル」を挟んで今回も旧作を復活させたが、生命や医療、地震や地球温暖化など現代のテーマを取り上げる最近作にはないロマン横溢が懐かしい。

健康診断に人間ドックが必要なように、時代の点検に演劇は有効な手段なのかもしれない。医者の家系という内藤の興味は、しばらく科学方向に振れていたが、競馬にも一家言を持つ。馬の血統は科学との説もあるが、最終的に予想はロマンの最たるもの。四畳半を舞台にしたかつてのスーパーセンチメンタリズムと自分探し、その残り香が味わえる今回のロマン全開がうれしい。

3年ぶりの劇団本公演出演の荒谷が再演の決め手か。自称美人姉妹の重定、中津も同キャストで、もはやベテランの味。スナックママの皆川あゆみは初演時にウェートレスを演じていたのが、時の流れを感じさせる。

キーワード
DATA

TOP > CULTURE CRITIC CLIP > バイタリティ兼ね備えたロマンの復活

Copyright (c) log All Rights Reserved.