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すがた現す者 松岡永子
 男は旅に出た、と題するシリーズの第一作。チェ・ゲバラ。

 劇中、台詞は一切ない。
 ストーリーラインははっきりしているのだが、「出会いと別れ」「魂の交流」「山岳ゲリラ」などのシーン名やゲバラの略歴など、言葉による手がかりがないとわたしなどには物語として追っていくのはちょっと難しい。開演前にパンフレットを読んでおいてよかった。
 言葉の代わりに生演奏の音楽がずっと流れている。ほとんど外国語なので歌詞の意味はわからないが、場面に沿いながら舞台の動きに拮抗するすばらしい演奏だった。風がテントを叩く、暴力的なバタバタという音までが効果音のように聞こえた。

 若い日、オートバイでの南米放浪。友人と二人、荒野を走り自由の気分を楽しむ。テントの後ろが開くと水があり、友人と二人でその水を跳ね上げてはしゃぐ。

 態変が使っていたのは浪花グランドロマンのテントだが、テントの使い方としては、本来の持ち主を上回っていたと思う。幕(舞台と客席の間に、カーテン状に吊ってある)を引くのは幕間、とか、舞台後方を開くのは芝居の最後、だとかいった、テント劇での当たり前から自由だった。
 テントのラストシーンでは舞台から外へ、狭い世界から広い場所へと出て行くことが多いのだが、それだけが解放や拡がりを表現する方法ではないのだということもよくわかった。

 旅をつづける中で貧しい人々と出会い、食事を分け合ったりする。比較的恵まれた階層に生まれたゲバラが貧困や差別を目の当たりにして、社会の矛盾を自分の問題としてとらえるようになる経緯が明確に示される。
 友人は去り、ひとりで旅をつづける彼は激しい流れに呑み込まれていく。

 その後、ゲリラ活動をするゲバラはトレードマークの帽子をずっとかぶっている。
 彼の戦闘者としての卓越した能力を描くことに主眼があるようには思えないが、やはりサンタクララの勝利のシーンには迫力があった。
 革命軍が政府軍の列車を脱線させたこの戦いの場面では、ゲバラの合図でレールがはずされ脱線の大きな音がすると、開け放たれた舞台の後方から人々が這い登ってくる。それはしいたげられていた民衆が這い登ってくるイメージだ。ゆっくりと前進してくる人たちで舞台がいっぱいになる。エキストラも含め、出演者全員で声を上げるのは圧巻。

 同じく登場人物の多い祭りのシーンはほんとうに楽しそう。平和とその年の収穫を満喫している感じがあふれている。歌い、踊り、飲み、楽しむ姿は屈託がない。
 さまざまな民族衣装の中でも、色鮮やかな赤の民族衣装が目を惹く。民族衣装の女性、鮮やかな色彩からは、フリーダ・カーロの絵を連想した。

 舞台の後ろ部分を開けると扇町公演の芝生が見える。客席から見ると上り坂になっているその芝生の緑の中に立つと、民族衣装の赤はよりいっそう鮮やかに映える。

 銃声が響くと、血の色をした布が坂を下って拡がる。血の大河は舞台に達し、そこにいるゲバラを呑み込んで舞台全体を包み込んでいく。
 若い日旅に出て、貧しい人々との交流、友との別れを経験し、流れに呑まれて新しい旅が始まったようにまた別の旅が始まる。

 色を使った象徴的なラストシーンの美しさをはじめ、舞台は全体として色鮮やか。だが無彩色のレオタードを着ているときもあり、そのときは抽象的な存在らしい。
 はじまりのシーン(終わり近くにも同じシーンがある)。茶色一色のレオタードを着た役者たちがゆっくりと出てきてポーズを決めぴたりと止まる。立ち枯れの冬木のような風景が現れる。
 動かないでいる、ということは意識的に動くことの原点であり、おそらくダンスのはじまりだ。その動き(動かないこと)をきちんとできる演者たちに、身体コントロールの確かさを感じる。
 また、ゲバラの友人を演じる小泉ゆうすけが、あえて立たない、跳ばないことに感心した。上肢が不自由な分、繊細で力強い動きをする脚は、屈んだ姿勢を保つことに使われる。その低い姿勢が、舞台全体を眺めるとき、とても効果的なことに気づく。
 低い姿勢を保つことは、地味に見えるが強靱な筋力と訓練を必要とする。だれもそれを知ってはいる。だが、派手なパフォーマンスに目を奪われがちだ。
 彼に限らず、演者たちはその底力のあるところを派手なはったりではなく、物語を支える地味な土台の部分に据えているだと思った。

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