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パーマネント・ウエイ 松岡永子
 分岐点のY字形のレールが床の中央に白く描かれている。その両脇にフェンスが立ち、区切られた外側にある客席から見ることになる。ホールの二階部分も使い、舞台は立体的に構成される。

 アイホールでの海外戯曲リーディングは「リーディング」という言葉で一般的にイメージされる静的なものとは違う。三日ほどの稽古で役者は台詞を覚えてしまうこともあるそうだ。ただ、今回はすべて覚えることは不可能だろう。膨大な言葉で構成されたドキュメンタリードラマなのだから。

 衣装を付け、立ち、歩き、演じる。だがテキストだけは手放さない。
 テキストを持ち続けることに違和感を抱く人も当然いるだろう。一方、そこにある言葉がフィクションではないこと、実在の人が語った言葉だということを忘れないため、役者と言葉の距離を保つためには、テキストを手にしていることが効果的だという意見も聞いたことがある。

 イギリスの国鉄民営化後起きた四つの重大事故。その関係者たちへのインタビューをコラージュ、再構成した作品。インタビューの相手は、事故の負傷者、遺族、弁護士、技師、作業員、鉄道会社重役、政府高官と多岐にわたる。五十人ほどの人物の発言を十二人の役者で語る。
 以前見た同じ作者の「スタッフ・ハプンズ」は政治家の発言をコラージュしたもので、やや戯画化されたところがあった。今回の作品は一般人も含め、多くの人にインタビューしたものをまとめいて、ストレートに素材そのままであるという感じがする。官僚も、企業の社長重役もよく語り、日本との違いを感じる。

 イギリスでは国鉄は「効率化」のために輸送会社、列車の管理会社、線路の保守会社などにバラバラに分けて民営化された。責任も分割されている間に、最終的に安全の責任を負うのが誰なのか曖昧になってしまった。
 誰もが自分ではない誰かの仕事だ、と知らないふりをしたもの、見逃したもの、置き去りにしたもの。それが表面化したのが事故だった。
 大きな事故には至らなかったが、見えにくい信号によるミスや線路の故障は繰り返されていた。報告はされていたが、すぐに対応策が実行されることはなかった。誰が処理すべきだったかすら事後になって語られる。あらゆることが大事故が起きて始めて報道される。劇中に出てくるイギリスの地名や会社名は聞き慣れたものではない。だが、どこかで聞いた話だという気がする。

 乗客のひとりは、みんな日々ベストを尽くしている、一生懸命でない人なんていない、と言う。それなのに全体としてみるとなぜかうまくいかないのだ、と。
 たぶん誰もが実感できる言葉だ。そしてそれはこの作品自体を言い当ててもいる。

 ひとつひとつの発言はとても真摯だ。だがそれらを俯瞰したとき、調和の取れた全体が現れることはない。
 鉄道関連の会社の人間も誠実に語ろうとする。だが彼らの発言には責任逃れのにおいがある。
 言葉はまず自分を正当化するために使われる。
 事故現場となった町の牧師は、事故そのものの悲惨よりも、それによって町が受けるダメージの方により関心があるようだ。

 負傷者のひとりは、誰にも悪意はなかったのだから犯人捜しには意味がないと言う。それよりもこれから先のことを考えよう、と言う彼女が作った事故の傷を癒すための集まりは、遺族たちを招かない。
 遺族はきちんと憶えておくために、事故に関するすべてを知りたいと思い、責任の所在をはっきりさせ、納得したいと思う。負傷者はできるだけ早くこれまでどおりの日常生活に戻りたい、できることなら事故も過去のできごとの一つとして処理できれば、と願う。
 遺族と負傷者では、求めているものが違う。どちらも当然の希望である。より効率的に「回復」しようとする彼女を誰がとがめられるだろう。

 鉄道会社は効率のために分割民営化された。わたしたちの生活は効率のためにあちこちで分割されていく。
 わたしたちは分断されている。
 分けられて、その隙間からこぼれ落ちてしまったものが何なのか、はっきりと言うことはできない。それはもともとあったものでも、取り戻そうとするようなものでもない。昔は良かったと懐かしむノスタルジーの中にはない。そもそもすべてがうまくいっていたのなら、変革を考えることなどなかったはずだ。

 ラストシーン。
 すべての人がそれぞれの場所でそっとレールに手を触れる。
 そんなふうに、ゆるやかにすべての人と繋がりを持つことはできるだろうか。

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