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日本橋から発信する演劇・映像コラボ 西尾雅
日本橋の数百メートル離れた劇場2館で同時に進行する2つのストーリー。キャストの一部は劇場間を移動して両劇場に顔を出すが、客席を離れられない観客は相互に中継される映像で、別の劇場の様子をうかがい知る。ひとつの劇場内でそれぞれの物語は完結するが、2作品併せて観ることで背景の理解はより深まる。

2つの劇場をここ日本橋の立ち退きを迫られるケーブルTV局とアパートに見立てて、最新の映像システムで両劇場をつなぎ、劇場間を移動するキャストの歩道や店頭からの現場生中継も挟む。小劇場としては画期的な本格的映像コラボの実験を試みるが、内容は肩の凝らないエンタメにすっきり仕上がっている。

漫才コンビ(松田ジョニー、西田和輝)が2劇場に別れ、モニターに映る相方相手に漫才するはめになるシーンが象徴的だ。モニター相手に片手でツッコむや、ビミョーなタイムラグでふっ飛ぶ相方のモニター映像がシュール。片方の劇場に居ても相方の立場が想像できて笑えるが、実際にもうひとつの劇場で確認すると倍楽しめる。現場中継しながらの相互モニターそして現実には横にいない相手との漫才。高度な技術と豊富な稽古が惜しみなく笑いに消費される。

インディペンデントシアター2ndのケーブルTV局編には「ファイティングブロードキャスト」、アパート編の1stには「ポーカーフェイスアパートメント」のタイトルが冠せられるが、合わせて「#10」(シャープテン)と総称。劇場10番目のプロデュース企画の略号をそのまま用いた呼称に、日本橋から発信する劇場の誇りが垣間見える。

劇場プロデューサーそして原案の相内は映像出身なので、ビジュアル面のわかりやすさに意を尽くす。2館合わせて総勢30人もの役者が頻繁に出入りするが、キャラ設定も明快で、展開のスピーディさが小気味良い。

立ち退きを白紙撤回する条件に、番組を差し替え公開生放送をいきなりオンエアするよう要求されたケーブルTV局は、敏腕ディレクター(佐藤あい)の指揮下で準備不足のままスタジオからの中継を敢行。いっぽう、立ち退きたくないアパート住民たちも幽霊話をでっち上げて、不動産価値を下げることを思いつく。

トラブル続出、てんやわんやのスタジオを誤魔化つつ放送を続けるケーブルTV局と、嘘に嘘を重ねた幽霊話が収集つかなくなる住民たち。幽霊を現場ルポすべく中継のカメラとレポーターがアパートに派遣されて現場の混乱と観客の笑いは最高潮に達する。

嘘を重ねることで助長される混乱ぶりは、シチュエーションコメディの常套といえるが、総勢30人もの役者のボリュームと2館リンクの中継が新鮮で息つく暇もない。畳み掛けるタイミング、生きの良さこそが笑いの源泉だ。

加えてアパート住人は、アパートのマドンナ(片山誠子)を巡る住人男性2人の恋のさや当てに興味津々。彼女がどちらを選ぶか、その結末に観客も目が離せない。総勢30人の登場人物それぞれの背景までち密に設定した群像劇ながら、2作品どちらにも女性の主人公を据えて物語を求心させる。

けれど、最もおもしろく、かつ恐ろしいのは、混乱するスタジオ現場が映し出されることはなく、カメラワークやCMの挿入で放映が切り抜けられること。公開生放送で観客が立ち会うスタジオ現場とオンエアされる映像の落差が笑いの渦を巻き起こす。つまりここではTVの嘘が告発されているのだ。

人は仕方なく嘘をつく。嘘が避けられない人の業なら、TVは嘘を縒りあわせた虚塔といえる。TV局の捏造番組が問題になったことがある。人が嘘をつく限り、TVが真実だけを語ることはあり得ない。TVを批難しながら、自身の嘘に気づこうともしない人こそが真にこっけいで笑うべき存在なのかもしれない。

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