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愚かしくも美しい欲望の果て 西尾雅
座付作家・中島かずきのオリジナルとしては「SHIROH」以来2年ぶり(「吉原御免状」は原作:隆慶一郎)、今回でいのうえ歌舞伎5本目の市川染五郎にとっても「アテルイ」(02年8月)以来の新作。「アテルイ」は新橋演舞場、「髑髏城の七人=アオドクロ」(04年10月)は日生劇場と東京のみの公演だったので、松竹座の新感染(新感線+染五郎)は「阿修羅城の瞳」(03年9月)以来となる。

「酒呑童子伝説」を元にシェイクスピアの「リチャード三世」と「マクベス」をまぶしたピカレスクロマン。嘘を武器に戦国の世で成り上がった男の一夜の栄光と没落。新感染でこれまでヒーローを演じてきた染五郎の徹底した悪役ぶりに目を見張る。

落武者狩り中の元百姓ライ(染五郎)は森で3人のオボロに出会い、王の座と自分の命を引き換える契約を交わす。からっきしの腕前のライだが、契約の印に与えられた剣を握ればエイアン国一の使い手のヤスマサ将軍をたちまち下す。その剣はライの舌先三寸の嘘と同じ速さで動く魔力がかかっていたのだ。

エイアン国はオーエ国の金鉱をねらって侵攻し、オーエ国の長シュテン(真木よう子)はゲリラ戦で対抗中。ライはシュテンと密約を交わし、間者となってエイアン国にもぐりこむ、ライを兄貴と慕うキンタ(阿部サダヲ)を連れて。

エイアン国の暗黒街ラジョウで、盗賊を取り締まる検非違使長官のツナ(秋山奈津子)をライは見かける。ツナもヤスマサと同じエイアン四天王のひとり、ライが殺したヤスマサの妻でもあった。ライは自分をヤスマサの部下と偽り、ツナの懐柔に成功する。

いっぽう、エイアンの王・イチノオオキミ(田山涼成)の内縁の妃シキブ(高田聖子)はヤスマサの愛人でもあった。シキブから呼び出されてそれを察知したライは、シキブを言いくるめ情を交わす。シュテン、ツナ、シキブと森のオボロと同じ顔を持つ女たちを次々と手玉に取りライは足固めを図る。

ラジョウを牛耳るマダレ(古田新太)の正体は盗賊の頭、そのマダレと裏で手を握ってライは出世街道を駆け上がる。ライを不審に思う四天王のひとりサダミツ(小須田康人)に正体を突き止められるが、サダミツは逆にライの奸計にハマって自滅する。サダミツを手始めに邪魔者を次々陥れたライはついに王座を手にする。エイアンのみならずオーエ国も支配下に治めたライにとって、残る敵はライに反逆の狼煙をあげたツナとマダレたち残党のみ(マダレは実は幼い頃に誘拐されたツナの兄。つまり血を分けた兄妹だったと2人は知る)。

森に立てこもる残党より圧倒的に有利なはずのライの旗色が悪い。オボロとの誓いではライが王座にあるのは「自分で自分を殺さぬ」まで。追いつめられたライは、自分の舌先でもあるおのれの剣に貫かれて瀕死の痛手を負う。かつての自分と同じ落ち武者狩りに追われるまでに落ちぶれ、ライは壮絶な最期を遂げる。

長い物語は、実は落ち武者狩り中の若いライが観た一夜の夢とも考えられる。終わってしまえば誰の人生も短いもの。瞬時に過ぎない人生を自分の欲望に殉じたライはいっそすがすがしくさえある。

本物の霧や雨が降り、舞台中央に水が流れる川が出現する。何百もの髑髏で覆われた森で戦いの血はまたも流される。劇場機構を生かした大量の本水が膨大な血糊で赤く染まる。かつて華々しい見せ場だった新感線の殺陣が、今はアクションの強調ではなく悲劇を彩る要素として物語に溶け込む。わずかな時間に剣を切り結び舞台上を走り抜けるアンサンブルが実にぜいたくだ。

かつては歌舞伎のつけ打ちを模した音効が多用されていたが、今回は和太鼓の重々しい低音が悲劇性を強調する。ブルガリアンボイスを思わす女性ボーカルが魔女の呪いのように響き、物語を要所で引き締める。何より魅力は、立て板に水のごとく華麗な嘘を紡ぎ出す染五郎の口跡にある。黙阿弥を意識した中島の長台詞と旬の歌舞伎役者の身体(剣に操られる殺陣の動きがステキだ)の幸福な出会いにひたすら酔うばかりだ。

シュテンもツナも正義を名乗ってライに立ち向かう。ライは口先の正義を建前とあざ笑い、シュテンやライを駆り立てる感情が復讐でしかないと喝破する。9・11以降のテロやイラク戦争への疑問があらためてここでも投げかけられる。エンタメである演劇でそう問い続けるしつこさはとても大事だと思う。

いつともどことも知れぬ島国の物語と冒頭で注釈がつくが、争うことを繰り返す人間はこの星すらいつか滅ぼしかねない。レトリックを弄してライを手玉に取る森の方が嘘は一枚上手。ライはお釈迦様の掌で踊らされる孫悟空のよう。森に試され跳ね返されるライは、自然を破壊し自分の首を絞める人の愚かさの映し鏡なのだ。

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