log osaka web magazine index
WHAT'S CCC
PROFILE
HOW TO
INFORMATION
公演タイトル
パフォーマー
会場
スタッフ・キャスト情報
キーワード検索

条件追加
and or
全文検索
公演日



検索条件をリセット
世界へ発信する脱暴力 西尾雅
ドイツ語圏作者の手になる日本制作のミュージカル、むろん日本が世界初演となるフランス王妃「マリー・アントワネット」が東京、博多を経て大阪でも開幕。日独仏を結ぶ国際ミュージカルの誕生そして映画や小説、コミックに続いて日本からミュージカルも世界へ発信する時代が到来したことを高らかに告げる。

遠藤周作の原作「王妃マリー・アントワネット」からかなり改変されてはいるが、同じイニシャル(M.A)を持つ貧しい少女マルグリット・アルノーを王妃と対比させるアイディアは発展的に生かされている。

ロウソクの明かりにすがる貧しい庶民とまばゆいばかりのシャンデリアの下で舞踏会に興じる貴族。闇と光、対照的な2つの世界に生きる2人のM.Aが出会う。王妃は相手を礼儀知らずと嫌い、マルグリットは相手のぜいたくを憎む。反発しあう2人は歴史の渦に巻き込まれながらそれぞれの道を歩む。

演劇は嘘で歴史の真実に迫る。同じ作者の「エリザベート」は死神トートがエリザベート皇后を愛したとの仮説に基づいて彼女の魂が死を希求したことを暴き、池田理代子の漫画を舞台化した宝塚の「ベルサイユのばら」は実在しないオスカルを設定してアントワネットやフェルゼンと同じ年齢の彼らの叶わぬ愛を描いた。

今回は王妃と対照的なM.Aを仮定(イフ)することで歴史を見直す。私たちはハプスブルク帝国やブルボン王朝が既に滅んだことを知っている。歴史の転換点に新たな視点を与えることで現代に警告を発する。

錬金術師カリオストロ(山口祐一郎)は金属を調合して金を造り出すように人の出会いを操って歴史の歯車を回す。オペラ「フィガロの結婚」の作家ボーマルシェ(山路和弘)が当時の世相を噛み砕き、ルイ16世(石川禅)から王権奪取をねらうオルレアン公=ルイの従兄弟(高嶋政宏)が陰で暗躍を繰り広げる。

3人ともそれぞれの立場から狂言回しを務める。狂言回しが3人とは少し煩雑だが、そこに歴史の複雑さが重なる。わずかでも事態が違っていたならフランス革命は起きなかったかもしれない。歴史に人間が呑みこまれるのか、逆に人間模様が歴史のうねりを呼びこむのか。歴史のイフをこれは複眼で検証する試みといえる。

そもそも革命は名もない大衆の動員が必須。2人のM.Aや3人の狂言回し、それに主要キャストだけが重要なのではない。アンサンブルを生かす本作の群像劇は大衆のムーブメントを強く印象づける。

金銭欲、虚栄心、愚かさ、情欲、厚かましさ、憎しみ、復讐心を持つ人物がカリオストロの周りに揃い、7つの悪徳が攪拌されて歴史に名高い首飾り事件が引き起こされる。偽アントワネットにダイヤモンドの首飾りを盗まれた詐欺事件が、無実の本物アントワネット(涼風真世)を非難する世論を高める。

アントワネットの身代わりを務めたマルグリット(新妻聖子/笹本玲奈のWキャスト)は、恩人の娼館女主人ラパン(北村岳子)が王妃の命で鞭打ち刑に処され死んだことに怒り、貧民の女たちにパリからベルサイユまでのデモを呼びかける。マルグリットの言葉に耳を貸さない女たちがオルレアン公の金には飛びつく。無慈悲なアントワネットへの怒りは静まらないが、金で動員される大衆にもマルグリットは失望を覚える。

やがて王妃が捕らえられると、マルグリットは彼女を監視する小間使いを務めることになる。マルグリットは王妃からスウェーデンの貴族フェルゼン(井上芳雄)宛てのラブレターを託される。が、その内容は各国に宛てたフランス革命政府を倒せとの檄であった。もとより王妃への愛に殉じる覚悟のフェルゼンだが、彼を利用する王妃の冷酷な計算にフェルゼンは慟哭する。

クリスチャンの遠藤周作が問い続けた「なぜ神は試練を与えるのか」というテーマが全編を貫く。孤児のマルグリットを教えた修道女アニエス(土居裕子)や報われぬ愛に殉じるフェルゼンに運命は苛酷な試練を与え続ける。けれどそれは支配する側も同様、ルイ16世もまた神の理不尽を痛感する。鍛冶屋になりたかった彼は王に生まれたことを生涯嘆いているのだ。

ギロチンの発明者ギヨタン博士(佐山陽規)にルイ16世は素早く斬れ苦痛を与えない人道的な処置として刃を斜めにすることを提案する。皮肉にも自分と王妃がその犠牲になるとは露知らぬまま。自分で自分の首を絞めるとはまさにこのことだ。

ラストで舞台を覆いつくす巨大なギロチンが天から降ってくる。処刑されるアントワネットだけにではなく観客全員の頭上にそれは降りかかる。愚かさはわが身に還る。すべてを断罪する神の剣にも似て。

断頭台に向かうアントワネットを官吏が突き飛ばす。倒れたアントワネットに手を差し出すマルグリットのやさしさが救い。差別に抗して立ち上がったマルグリットは暴走する革命に失望し、大衆の貧困に無知だったアントワネットは母となって親の喜びやつらさは誰しも変わらないと知る。対立を続けた2つの魂は長い時を経てようやく同じ地平でまみえる、最後の最後に至って。

M.Aはいわば相反する双子の魂。2人は同じ子守唄を聞いて育ち、その子守唄は父親譲りという原作にはない設定が明かされる。私生児のマルグリットとアントワネットの父親は同じ、つまり腹違いの姉妹と劇中で暗示される(アントワネットの母=女帝マリア・テレジアは夫の浮気癖に悩んでいたのであり得なくはない)。人はひとりのアダムから生まれたと聖書は説く。対立する2者のルーツは同じ、(どこかの宗教ではないけど)人がみな兄弟と知れば対立が溶けるやもしれない。

けれど、理想を求めて人は対立を激化させることもある。口々に自由を叫び、血で血を染める革命の何と矛盾に満ち、悲惨な実態をさらすことか。顔を失った大衆(表情をうかがえない黒いシルエットが立ち並んでいる)が処刑場を見下ろす窓が白、血で染まったギロチンが赤、処刑された王妃が横たわる断頭台が青とそれは見事にフランス3色旗と同じ色に染まる。

自由、平等、博愛を意味したはずの3色が虐殺の血で汚れる。冒頭でマルグリットは現実の闇を見ようともしないアントワネットの虚飾のまぶしさを批難する。憎しみの連鎖を断ち切るには、相手も自分と同じルーツを持つと知ること。闇と光は本来対立せず、闇の中に光を、光の中に闇を見出すまなざしこそが今求められているのだ。

キーワード
DATA

TOP > CULTURE CRITIC CLIP > 世界へ発信する脱暴力

Copyright (c) log All Rights Reserved.