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大切なティータイム 西尾雅
NHK朝ドラはいざ知らず、夜のテレビドラマでお茶の間が登場しなくなって久しい。それだけ核家族やシングル化が進み、おシャレなレストランやカラオケ店がそれに取って代わった。家族友人が一同に集い、お茶を楽しみ世間話をする。そんな団欒という言葉さえ都会では今は懐かしい。かつての松田正隆作品にはちゃぶ台を挟む夫婦がよく登場したもの。質素だが、彼らのたたずまいには生活感と愛や葛藤が匂い立つ。けれども流行のレストランを舞台にした恋愛劇は小ギレイだがどこか薄っぺらい。

本作ではお茶を飲むシーンが何度も登場して印象を残す。あうん堂は、時流に逆らうかのようにお茶の時間を大切にする。役者の杉山寿弥と座付作家の杉山晴佳からなるユニットは公演ごとに共演者を募るがテイストは変わらない。茶飲み友達のような仲間とほっこりした時間をいつも提供してくれる。別に大きな事件が起こるわけでもなく、日常を淡々と描くだけ。それを世間話や井戸端会議に終わらせない。生活者の視点での問題提起があうん堂らしさでもある。新聞の女性読者投稿欄のエッセイには、はっと気づかされることが多いが、同質の提案をエンタメである演劇に再構成する発想が有意義で新鮮だ。

田舎の民家を改装した元民宿のリビング。民宿を営んだ両親は隠居、廃業した元民宿に兄妹2人が住む。勤め人の兄(杉山寿弥)は民宿業に興味なく、けれど妹(香川倫子)はひそかに再開を関係者に相談する。問題は、妹は兄の親友(白木原一仁)と恋人同士、けれど兄はまったくそれに気づいていないこと、そして相談相手のホテル御曹司(渡辺雅英)もまた彼女にひと目ぼれしたこと。両親不在の折、両親と親しかった兄妹の後見人(木元としひろ)は、妹の恋愛そして民宿再開の悩みを知るが、彼自身にも兄妹に隠している負い目がある。そこに、廃業を知らない常連客(小畑香奈恵)が突然泊まりに来て....。

物語の最後。兄は中間管理職の悩みを抱えつつも勤めを辞せず、妹は結婚そして民宿再開の夢に向かって前進し、ライバルを向こうに御曹司も恋をあきらめない。挫折を経験した常連客は海外に新天地を求め、後見人は兄妹の両親に借金を肩代わりしてもらい、それが廃業の原因だったと告白する。問題の少しは先が見え、少しの謎は解決したが、終わったわけでも丸く収まったわけでもない。

舞台に終演はあるが、物語はそこですべて終わったわけではない。登場人物も観客も悩みつつこれからを生きる。人生に全面解決などなく、悩みはいつだってつきまとう。ただその時、お茶をすすり、ため息をつき、おしゃべりをし、ほっこりできるティータイムがあれば、解決の道はずいぶんと変わることだろう。かつて両親が営んでいた民宿に常連客はとても癒されたに違いない。まるで、あうん堂が創り出す舞台のように。それこそが栄養ドリンクにまさるお茶の効果。身体にしみわたる甘く、懐かしく、そしてほろ苦い味わい。取って置きのお茶はあうん堂にとても似ている。

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