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未市民ワイド 松岡永子
 会場に入ってまず客席数が少ないのに驚く。アイホールなのに。自分たちの観客はこんなもん、ということだろうか。動員数になんか興味ないのか、むしろ観客を限定したいのだろうか。
 彼らは表現することには熱心だが、他者にわかってもらおうとすることにはあまり興味がないようにみえる。ボクのことわかってョわかってョ、とアピールするにははにかみやで上品に過ぎるのだろう(でもコンセプチュアルアートっていうのは、コンセプトを丁寧に説明してもらわないと面白みがわからないことが多いんだよね。文字として残ったものは聖人の糟粕にすぎない、というか)。けど、今回はやや下品かもしれない。
 今回は「ミュージカル」なので、趣向は音楽とダンスに集中し、その奇妙さは一見してわかりやすい。ストーリーがシンプルに見える。若い夫婦がTVで宣伝されているかどうかを基準におむつを選ぶ、といった細部だけが目につくことがない。

 市民税を払っていない親子三人(たとえば父親が税を払っていないのは会社が社会保険料をごまかしているため、という設定。やや苦しいが、都市に属さないし守られない底辺者、という設定なのだろう)。変な髪型の父親はことあるごとに理髪店・上須に行く。ことがなくても行く。ときどき苦しくなるがそのたびに行く。娘の恵子は父の髪型に不満を持っているが、悪趣味な母親は今のままでいいじゃないと言う。恵子のパンクスの恋人はデビューのため東京に行ったが、新しい恋人が妊娠したので結婚するというメールがくる。恵子は近所のスーパーで赤ん坊を連れ去ってしまう。
 父の痛みは交通事故の後遺症であり、車で撥ねたのは上須だった。致命傷だったのを不法な手術で銀のチューブを埋め込み命を救ったのも上須だった。命の恩人だということで上須は頻繁に父親に散髪させ、金を吸い上げている。上須がいなければ父は現在いなかったのだから、と父も母も今の在り方を認めている。恵子は両親に対しても恋人に対しても不満を言語化できない。平板なもの言いは感情を感じさせないが、行動を見ると激しい感情の動きがあるのだろう。

 どの役者が主人公ということはない。そのシーンでお母さんと呼ばれた役者が母親であり、恵子と呼ばれた役者が恵子である。妙に平板なメロディはフリーソフトを使用して作られたものらしい。みごとな発音のカタカナ英語を含む歌詞は、翻訳ソフトで日本語と英語の間を往復させ、できあがった不可解な言葉を再構成したもの。感情の動きに伴わないダンス。そんな盛りあがらせない「ミュージカル」。
 Acoustic sessionとElectric sessionがあったうち、わたしはAcoustic sessionを見たが、使われる楽器はもちろんギターやウッドベースではない。ジャンベやタブラ、ディジュリドゥといった、最近ややメジャーになってきた民俗楽器の系統でもない。あえていえばガラクタ系。おもちゃのラッパやピンポン玉を落とす音、薄い板のボヨンと撥ねる音などで、実に緻密に伴奏が構成されている。
 舞台の側面に並んだたくさんの照明や音響機材には、すべて赤い×印のついた紙が貼られている。せっかく並べられながらまったく使われない立派な機材(Electric session用の機材を出しっぱなしにしていただけかもしれないが)は、お話のマッチポンプな状況に妙に合っていて面白い。

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