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元宝塚の美学 西尾雅
だんじり祭を週末に控えた岸和田にはどこか浮き浮きした気分が漂う。スーパーマーケットやアウトレット、シネコンに併設された浪切ホール(キャパ1500人余り)は祭が最も盛り上がる「やりまわし」随一の見せ所・カンカン場に位置。雁冶郎(現・坂田藤十郎)が設計アドバイスした劇場(02年オープン)は、現代的な機構と落ち着いた雰囲気に岸和田市立の公共ホール感がほど良くミックスされている。

今春、宝塚宙組をトップで退団(たった1回の大劇場公演、つまりお披露目=退団公演を笑顔でこなして健気)、退団後の初舞台となる貴城けいを主役に、これまた宝塚花組を昨年末退団したばかりの華城季帆(退団公演の「MIND TRAVELLER」は次期トップの真飛聖の相手娘役、ひたむきな女医役が涙を誘う)がヒロイン、今や澤瀉屋(おもだかや)を担う市川段冶郎と女形の多い笑也が立役で共演。ミュージカルからは吉野圭吾とANZA(「レ・ミゼラブル」のエポニーヌ役など)が参戦と、宝塚+歌舞伎+ミュージカルの異種格闘技の様相を呈する顔合わせに注目が集まる。

時は安土桃山、秀吉死後の後継者を家康と争う石田三成(段冶郎)は難破した南蛮船から引き上げた棺桶を入手。棺に突き刺さった十字架を引き抜くや封印が解かれ甦ったドラキュラ(貴城)は、亡き秀吉が三成に託した天下統一の夢の実現を約束する。夜にしか活動できないドラキュラは昼間、出雲のお国(貴城)なる若衆に憑依するが、熱心なキリシタン信者の細川ガラシャ(華城)はお国に妖魔を感じ取る。

ガラシャはドラキュラがトランシルヴァニア公爵だった時の愛妻に瓜二つ。転生してキリシタン信仰に生きる妻と十字架を恐れるドラキュラが運命の出会いを果す。妻を愛するあまり異常な嫉妬心を燃やすガラシャ夫の細川忠興(笑也)や同じキリシタンとしてガラシャを助ける高山右近(吉野)と信者マルガリータ(ANZA)を巻き込み、舞台は家康との最終決戦の場・関ケ原へと移る。

アイディアは痛快だが、中途半端な展開で食い足りない。休憩込み3時間の上演時間は間延び感があり、暗転の多さにもイラつく。さすがに全暗転ではなく、ムービングライトで客席を目くらます工夫はされているが、場面転換の吊り物を入れ替え、役者が暗転板付きするだけに時間を取り過ぎ。ミュージカルと呼ぶには楽曲数も少なく、せっかくの歌えて踊れるキャストの見せ場もわずか(ミュージカルを謳ってはいないが、音楽:加藤和彦の起用がもったいない)。

細川忠興は家康方だから、ドラキュラからすれば夫人のガラシャは政治的にも宗教的にも敵側。2人を隔てる高い壁が、ガラシャの無垢の愛によって破られる。彼女を支えているのは、信長を裏切り逆賊となった父・明智光秀の娘という宿命に立ち向かう芯の強さだ。捕虜の辱めを許さぬ夫に従い、味方の刃に倒れたガラシャに心打たれ、ドラキュラも再び棺桶に封印される。組が違うため共演したことのない貴城と華城が見事な息の合わせぶりを見せる。

ガラシャ役の華城は役作りのためガラシャの墓参りに訪れた際にガラシャの存在を感じたそうだ。自分の肉体を魂の拠り代とし一瞬で感情移入する力が彼女には備わっている。対する貴城はひるがえすドラキュラのマント姿が文句なくカッコ良く、男とも女ともつかぬお国も艶めかしい。

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