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小粒のメセナ?個人の趣味?アートを支える多層なアクターに突撃


#2:エコールCP×稲垣智子

T−なるほど。そして稲垣さんと直接話されて、協力を決められたということですね。K−稲垣さんの熱心な話しに突き動かされたというのもありますね。ちゃんと自分の作品資料や、やりたいことを絵に描いて持って来てくれたので、お菓子を使って表現したいという点に関しても、とても納得のいくところがありました。それに、学校は「人に伝える」場所です。私自身も人生は常に勉強だという考えがあるので、この技術で、芸術の分野のお手伝いができるのなら…という気持ちで決めました。T−学校の上司の方などはそれに対して、どのような反応をされましたか?K−うちの学校の理事長(育成学園理事長 植木 砂織氏)は、「利益がないことだからやめろ」というような考えではないですね。理解してもらえました。学校としては、印刷物などに名前を出せるという面でメリットがあったと言えます。
T−外部に出るようなお仕事は、他の先生方も含め通常は行っておられないのでしょうか?K−いえいえ、もちろん料理の講習などで外に出ることは多々あります。でも、今回のことはそれとは全く別の分野です。だから「こういうこともやっているのか」という意外な一面を見てもらえることになります。T− エコールCPを知らなかった人にも、知ってもらう機会になるとお考えになられた?K−きっかけですよね。専門学校はもちろん企業としての面を持っていて、生徒数が直接私たちのお給料にも関係してきます。専門学校の種類や数はとても豊富ですが、時代は少子化。どこも生徒数を確保することがとても重要な課題です。うちでも体験入学など、学校を知ってもらう活動は盛んです。T−体験入学のバリエーションも、どんどん広がってきていますよね。ところで、先生は稲垣さんの作品をどのように手助けなさったのでしょうか?K−まず、作品の図面などを見せてもらって、具体的に作るものを決めていきました。そして、お菓子の見た目が一ヶ月間の展示に耐えられるように、いろいろと私がもっている技術を彼女に伝えながら試作を作りました。お菓子の耐久性を上げるにはとにかく、水分を無くして食品の濃度を上げる事が重要。カビを防ぐために、砂糖菓子もできるだけ乾燥させてがちがちに固めるんですね。T−マジパンのように。でも、作品中にはババロアなどの水分が多そうなお菓子もありましたが。K−ナマものらしく見えていたでしょう?でも、ババロアは牛乳の濃度をできるだけ上げて固めていたんですよ。ただね、彼女に色の鮮やかなゼリーも展示したいといわれた時は、かなり頭を痛めましたね。T−ゼリーは水分でできているようなものですよね。K−そうなんです。昔、ゼリーは水分が多くて日持ちがしないお菓子だから、本当に高級品だったぐらいですからね。でも、手伝う限りはいい加減なことはできません。稲垣さんの求めているものに少しでも近づけようとしました。この時は防腐剤を入れられるだけ入れ、食紅をつかってなんとか耐久性を上げました。それでも、展示中は状態を保つためにいろいろと苦労をされたことと思います。T−そのような試行錯誤を一緒にくり返して、いかにも「おいしそうなお菓子」を見せることができたのですね。稲垣さんが今回使ったお菓子のイメージは北村さんにとってどう感じられたのでしょうか?K−技術的にも同じイミテーションを作るとはいえ、ホテルの時とは全く違う意識で取り組んでいました。今回は、自分の名前が前にでるのではなく、あくまで稲垣さんの作品でしたから。一方で、だからこそお菓子に大量の添加物を使うことに、私自身の折り合いがつけられたといえます。T−それは…パティシエとしては、よりお菓子「らしく」見せるためにお菓子に大量の添加物がまぜられていたことに、抵抗感があったということですか?
K−添加物というのは、企業が同じ味のものを同じ質で大量に生産するために、そして防腐剤はそれらをそのままの状態で保存するために使用されてきたものですよね。今のお菓子業界は、より「利便性」を追求する方向と、「安全性」を重視していい素材を求めていく方向に二極化しつつあります。私は、食べ物にかかわる仕事をしている自負から、手作りならではの善さに価値をおいています。 スローフードを再評価しているといえますね。うちの理事長が会長でもある神戸スローフード協会というのがあるのですが、私も発起人の一人として参加しているのです。日進月歩で技術開発が進み、新しくなりつづけるものの中でナチュラルな素材を使用し、原点を見直すことを伝えられればと思って。T−稲垣さんの作品は、添加物や防腐剤を多用する事で、私たちが普段ものに抱いているイメージと実物のズレを伝えつつ、一方で添加物や防腐剤を全くなくしては生きられない現代の生活の中で、それらを完全に悪いものとして否定することはできないでしょうと語りかけているように私は思いました。北村さんの考え方とは違いがあるようですが、それでも協力を続けられたのはなぜでしょうか?K−稲垣さんの姿勢を尊重していましたからね。私は、食べ物を選ぶということは自分の価値観を作ることだと考えているのです。だから、自分の作った食べ物を人に食べてもらうことは、自分の価値観を伝えることだと考えています。お菓子は嗜好品なので、なくても人は生きていけますよね。でも、それを食べることでゆったりとした贅沢な時間が楽しむことができる魅力を持っている。お菓子がもたらす「幸せ」や「楽しさ」を人に伝えることがお菓子の職人の仕事です。それは食に限らず、自分の価値観を伝えることで、人を感動させる職業という意味では芸術家も同じなのではないでしょうか。

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