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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


14 京都の夏の体感温度 3

《京都の暑い夏 Hot Summer in Kyoto》体験レポート Vol.3

                                     レポーター:藤田一
                                     写真:田邊真理

ダンスメソッド A-4 4月28日(金)〜5月7日(日)  5月2日 (火)は休み 13:30〜15:30  全9回
[概要]トリシャ・ブラウン・カンパニー(TBDC)で長年踊ったキースによるリリーシング・テクニック・レッスン。身体構造の緻密な理解を促しながら、身体に対する負荷なくかつダイナミックに踊り、TBDCのテクニックを紹介します。


 
  キース・トンプソン (アメリカ合衆国/ワシントンD.C.)恵まれた身体的資質に裏打ちされた伸びのあるダイナミックな動きが多くの人々を魅了する。骨格や筋肉の構造に正確に、無理なく動くことで生まれる軽やかな動きの中に、ハッとするような驚きやウィットが込められている。アメリカとヨーロッパ各地でダンスを学んだ後、リリーシング・テクニックの先駆者として有名なトリシャ・ブラウン・ダンスカンパニー(TBDC)で10年間踊る。その間リハーサルディレクターも務め、現在TBDCでWSを継続する他、アメリカ・ヨーロッパ各地で指導を行うなど優れたダンス講師である。(提供:京都の暑い夏)
 


 私は、4月28日から5月7日まで、9日間に渡るキース・トンプソン(USA)のワークショップを受講しました。ダンスを教える経験の豊富な先生で、非常に丁寧で優しく、また根気づよく、常に参加者を気遣いながらすすめられていくワークショップでした。
ワークショップでは、おおよそ前半、後半に1日を分け、基本の内容を毎日繰り返し行いました。前半はストレッチやフロアを使った運動など、ゆっくりと緩やかに体を準備していくようなものが主体。後半は3〜4つの振り付け(短いピース)を踊ります。

 前半のエクササイズには、例えば次の様なものがありました。まず、直立した姿勢で骨盤に前後から両手を触れる。次に頭から床に向かってゆっくりと下がり始め(ローリングダウン)、骨盤が動き始める直前で一旦固定する。「ハーフ・ウエイ・ポイント」と呼ばれるここで、キースは、骨盤から背骨が上半身をどう支えているのか探るように声をかけます。そうして、この「ハーフ・ウエイ・ポイント」から床まで完全に頭を落とし、上半身の体重を両足へと移すと、膝はのばされた状態で、丁度二つ折のような形になります。ここでは足の裏から骨盤まで足全体が、上(天井)と下(床)の二つの方向性によって支えられていることを意識します。さらにここから膝を折り、体重を支える意識を両足へ移します。

 身体の形を変えながら「体重の支え」を手がかりに行われたこのエクササイズは、身体の構造を分解的に捉え、各々の部位の所作(見え方)や役割を認識・理解するための作業であったように思います。また同時に、こうした部位の“つながり“を意識しながら、普段意識していない時も含めて、自分自身の身体をどう使っているのか、或は使えるのか、丁寧に確かめることが出来ました。なお、このエクササイズは、さらにここから身体を床へと全部降ろし、うつぶせの状態にし、上半身をひねってみるなど、より多様な部位・構造へと視点がひろげられていきます。


 
  フロアワーク
 
 こうして基本のエクササイズで自己の身体に対して十分に意識を呼び覚ました上で、もう少し速く、複雑な運動を行っていきます。このときもキースは、冒頭の運動で得た“気づき”を呼び覚ますよう参加者に繰り返し語りかけ、実はそうした“複雑な”運動が、単純な運動と同じシステム(身体構造)によってなされていることを示そうとしました。それは後半の振り付けにもつながっており、参加者が振り付けを踊るという行為を抽象的に捉えがちになるとき、同じ様な言葉をかけていました。

 後半の振り付けは、毎日新しいものを踊るのではなく、前半4日間は3つ、後半5日間では別の4つの振り付けを、繰り返し練習していきました。アクロバティックな運動を中心にしたものや、跳躍をメインにしたものなど、各々に特徴がありましたが、共通しているのは、基本的に速度が速いということと、ステップが連続していることです。例えば一つの振り付けの一部をなるべく簡単に描写してみます。まず突然に飛び上がり、下りてくると同時に左方向へターンを繰り返し、片足で静止。今度は右方向に次第に体重を傾け、支えきれなくなるところで左足をつき、ついた左足の屈伸を使って逆に右方向に跳躍する。左足、右足で降り、今度は左足と左手、そしてすぐに右手と右足をなびかせ、半回転し、その後右足だけで体を支え、上半身と足を床と水平に傾ける…。非常に躍動的で運動量の多い振り付けが伝わるでしょうか。

 一つ一つの振付を私たちが踊る前に、キースは、おおきな体ですいすいと、かつダイナミックにデモンストレーションしてくれました。私も含めて参加者は皆、始めはキョトンとなり、まるで本番の舞台を見るように「すごいなー」と感心しながら見とれています。けれどもすぐに、自分たちが踊るにはどこから手をつけていいのやら、困惑した面持ちになり、キース先生に「もっとゆっくり見せて下さい」とお願いすることになります。そして、それに応じた彼が示してくれるスピードダウンした運動の中から、まずは自分が真似出来そうなところを探して、少しずつ振り付けを覚えていきました。ですから、新しい振り付けを踊り始めの頃など、私たちは全体を把握できずに、ぶつぶつと幾つかの運動を切れ切れに踊っています。キースは、私たちがそうした時には必ずといっていいほど、“つなぎ”に気をつけなさいと声をかけ、“連続性”という言葉を繰り返しました。


 
  「つなぎに気をつけて」「連続性!」
 
 踊ったことのない方には、振り付けというものをダンサーがどうやって覚えていくのか、あまり馴染みがないかもしれません。私の場合、それは山登りに喩えられるかもしれません。頂上(踊りの最後)へと至る経路の途中に、標識を設置しておいて(山登りの場合は先人によって設置されているのですが)、その標識を順々に辿って行くことで、1つの流れ(時間的構造/ストリーム)を組み立てていくからです。また、こうした標識が、振り付けによって、つまりは振付家やダンスの種類において、異なった性格を持っています。それは、山によって標識の形や立てられ方が異なるのと同様です。

 キースの振り付けは、この標識が“連続”することによって、また基本的に速度が速いことも相まって、悪い意味ではなく「あいまいな」印象を持っているな、と私は感じました。この「あいまいさ」は、私が習ってもいるモダンダンスやクラシックバレエと比べてみるとわかりやすいかと思います。これらにおいては、もちろん振り付けは時間の進行に伴って変化するのですが、Aという動作、Bという動作、Cという動作(それぞれが同じだけの時間の幅をとるわけではありません)、とかなり明確に分けることが出来ます。それに対してキースの教え方では、例えばターンを繰り返してすぐに上半身を水平に傾ける時も、ターンに伴い発生する遠心力を使って水平に傾くまで、連続した動作を求められます。と、同時に、水平に傾けられた上半身から、手の先端がのびていく感覚を要求される。つまり、遠心力が、傾く力へと伝達され、それが今度は上半身の方向にのびていく。言葉で表せば、このように3つの段階で示せますが、実際にはこれらの力は混在して身体に存在し、意識が持とうとする力のイメージ(3つの段階に分けて説明したような)となかなかに一致しません。この不一致が、「あいまいさ」を導きだすわけです。

 この「あいまいさ」は、キースの振り付けで多用される「オフ・バランス」に由来するのではないかと思われます。「オフ・バランス」とは、体重を重心からずらす方法のことです。私たちは普段普通にたっているときには、別に意識しなくとも下半身が重心を支えています。でも、例えば歩いていて誰かに突然突き飛ばされたとき、重心が支えられなくなって倒れかかります。このとき、たっている状態を「オン・バランス」、倒れかかること状態を「オフ・バランス」と言うことが出来ます。この、重力に従い移動する重心の力を利用して、動きと動きの間が途切れることがない点、つまり「あいまいさ」の原因となる“連続性”が生みだされている点が、キースの振り付けの特徴です。加えて、抗うことのできないその流れの中で動きが連ねられてゆくと、振付はどんどん加速していきます。

 もちろん、私がこれまでに習ってきた経験にもとづくなら、バレエやモダンダンスでも、「オフ・バランス」はしばしば使われます。ただそこでは、「オン・バランス」が基本となった振り付けの中に、「オフ・バランス」を用いた動きが(確定したフレーズとして)挿入されるのです。連続して「オフ・バランス」が用いられるキースとは、この点で区別することができると思います。

 最後に、全体をとおしての感想として、このワークショップからは、身体に体するある向かい方が見えるように思います。それは、身体を物理的/論理的に、「もの」として観察する姿勢です。前半のエクササイズでは解剖学的な構造として、後半の振り付けにおいては質量をもつ物体として、身体は扱われていました。

 身体をこのような「もの」として捉える姿勢は、人間が身体とどのようにつき合ってきたかということを歴史的に、また舞踊史的に考える上で、興味深く思われました。神話に見られるように、私たちが宗教や因習にもとづいて世界を見ていた時代には、身体は、「もの」として明晰な思考の対象になり得なかったそうです。つまり、私の身体は対象化されず”私”そのものであり、そのような私と一つであるような身体が、人間を神や様々な事物と結びつけていたと考えられる。このような身体から「もの」への移り変わりを、ダンスの歴史の中にも平行して観察するなら、キースのダンスは、極めて現代的だと言えるのではないでしょうか。また、「もの」である身体が、私たちが今生きている社会では、思考だけでなく、所有の対象でもあることなど考えると、コンテンポラリーダンスは、今日の社会について考える手がかりを含んでいるとも言えます。

 キースは、トリシャ・ブラウンと長年に渡って仕事を行ってきました。キースが僕のインタビューで答えてくれた通り、トリシャ・ブラウンはテクニックとして固まったメソッドにあたるようなものは決してつくらなかったので、キース独自の方法論が彼の教え方の中に多分に含まれているでしょう。しかし、モダンダンスからコンテンポラリーダンスへ至る流れの中で、極めて興味深い存在であるトリシャ・ブラウンの手法を考えるうえでも、彼のワークは貴重な機会を与えてくれたと思っています。

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