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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


09 空腹の技法 その2 山下残

<即興を振付る!? 『船乗りたち』>

では、今回の作品について。前の作品からのつながりでいうと?

山下:『せき』が終わって、そのつながりでいくと『コピュー』をつくったんですよね。言葉と呼吸に動きをつけていって組み合わせて、呼吸を合わせて十数名のダンサーが踊る作品。そのときに、僕の言葉の使い方が悪いのかも知れないけれど、どうしても表面的になってしまうというか、なんかロボットみたいになってしまうんですよね。最初机でダンスをつくりたいと思っていたことが、現実になってしまったときに、やっぱり物足りなさを感じてしまったというか。
 それでダンサーの内面を引き出すためにどうしたらいいかってずっと考えて。 『透明人間』のときに、言葉を使って土方巽になったらよくないなとは思ったんですね。言葉で、人間の内面に降りていくっていうのは、どうしても舞踏のパロディになってしまうというか、僕が土方巽をやることになってしまうから。それじゃいけないので、言葉から離れたいと思った。あと、僕が言葉とか始めたのは2001年なんですけど、そのときは言葉と身体についての関心は全然高くなかった。それをいろんなところで聞くようになったから、もうそろそろええかな、と思って。(笑)
 それで、人間の内面を引き出すのにまず手っ取り早いのは、即興かなと思ったんですね。しかも即興をつくるということは、ダンスに言葉を使うと同じくらいタブーじゃないかと。

公演の時に即興ということでしょうか?

山下:そうそう。即興を作品にしたいということ。

それでも作品だと?

山下:そうです。即興で振付るんじゃなくて、即興を振付したかったんです。即興で振付って、よくあるじゃないですか。

 

 
 

 
山下:説明するときに言ったのは、普段は本番の日に完全に再現できるという前提できっちり構成を決めて作品をつくるけど、当日に大地震がきて、劇場がめちゃくちゃになって、まともに上演できないということを前提として、作品をきっちりつくっていくとどうなるかってこと。つまり、当日完全に再現することが不可能だということを前提として作品をつくっていくみたいな。それだけだと即興にはならないんだけど、その前提の上で、つくった振付をテクストにして、それをダンサーが本番中に瞬間、瞬間に解釈していくっていう試みなんです。今までは言葉がテクストでしたが、今回は振付そのものがテクストです。それは全部映像に取り込んで、パソコンに入れて、みんなで憶えるんです。

でも本番はテクストと違うことするんですよね?

山下:本番はねえ、舞台がうぉんうぉん動くんですよ。

床が?

山下:『船乗りたち』だからねえ。筏がうぃんうぃんと。絶対、つくった振付はそこでは再現できないですよ。なおかつ振付はユニゾンできっちりつくられている。そのとき、本当は今までやってきたように、呼吸で決めて、吸う吐くで合わせていきたかったのですが…、無理だったんですよね。『コピュー』のときは、決まった動きを呼吸で合わせるのが大変だったんだけど、まず呼吸に合わせなければいけない、しかもその呼吸で決まった動きを違ったかたちで解釈しなければならないとなると、もの凄く練習すれば大丈夫なのかもしれないけれど、間に合わないと思ったんですね。で、呼吸で合わせるのをやめて、動きをリセットするポイントを決めておいて、ダンサーはそこまでは、決めてある振付を揺れる舞台の上で解釈してゆく。一定のところにいくと、リーダーが待っていて、ここで合わせる、またここでリセットするっていうのを決める。そのポイントさえしっかり押さえて、お互いのことを見ていけば、全員がかなりばらばらな振付をしているけれども、始まって終わりまで合う、しかも即興のようにお互いを見ながら感じながら、動きが繰り出されていく、みたいな雰囲気になるんですよね。

うまく想像できないので、音楽の即興演奏法の「コブラ」とか…みたいな?

山下:いや。コブラみたいな指揮者はいますけど、指揮者は、今どこをやっているかをキープする役割。ひとつのテクストをそれぞれがばらばらにやっているという部分で即興なんだけど、一番問題は、時間軸がずれてしまうこと。それさえどこかのポイントで押さえていけば、共有した時間をつくりながら、即興で進めてくみたいなことができると。原型の振付は1時間。スピード、解釈は自由。でもリーダーは、リセットするポイントで、時間軸をそろえる。

解釈は完全に自由なのですか?何かパラメータがあります?

山下:解釈というより、もとの振付にすがるみたいな感じ。体の動きが持っているテンションは同じ、みいたな。喩えだけど、夢をみて、目が覚めてもまだその怖さが続いているみたいな感じ。原型の振付は体に残っていて、それをやろうとするんだけど、舞台は揺れていて、それはできない。でも自分の体の中では時間は継続させている。テクストは体に入ってしまっているから、そこから離れられない。そこで出てくるのは全くちがう解釈じゃなくて、動きは空間にあてはめてゆくものだとしたら、体の中と外を反転させて、外が体の中に入ってきたみたいなもんですよ。まだ4人で動く状態になってないけど、そんなに動けないだろうなとは思っている。だからやりながら、送信できる範囲で-送信しすぎていると自分がわけわからなくなるから-相手に送信しなければならない。自分の内面でなぞっている振りを保ちつつ、他者に送信しているっていう感じ。

その送信は観客にも?

山下:今は乗組員でせいいっぱいですね。もうちょっと、ある程度息があうようになったら…。今のところイメージとしては遭難船で、そこにお客さんをどう関連づけるのかは、やってみないとわからないですけれどね。

楽しみにしています。


 
  宣伝美術:木村敦子
 
+ + + + + 公演情報
京都芸術センターセレクションvol.20 山下残ダンス公演『船乗りたち』
12月23日(19:00)、24日(15:00)、25日(15:00)@京都芸術センターフリースペース

振付・構成・演出 山下残
振付アシスタント 大槻弥生
出演 垣尾優 筒井潤 新宅一平 山下残 

2007年2月に改訂された『船乗りたち(陸地バージョン)』のレビューは、 「読解できないもの その1』 をご参照ください。

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