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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


09 空腹の技法 その2 山下残

<踊る人から振付る人へ>

山下:そのうち自分でもストリートとかで踊り出して、その頃に知り合った人に、野村誠さんのパフォーマンスに連れて行かれて衝撃を受けて…。彼の周りは当時、京大とかのインテリばっかりだったから、僕みたいな人をかえって面白がってくれて、彼がやってた現代音楽のグループの周辺の人と遊ぶようになりました。その遊び仲間に「モノクロームサーカス」の坂本公成さんもいて、ちょうどヨーロッパから帰ってきてまた何かつくるというところでした。彼はどちらかというと演劇のほうから来ていたので、ダンスのレッスンとかは僕がやったり。

現在の「モノクロームサーカス」の前身となった集団で、山下さんも作品をつくり出されたのですね。『詩の朗読』という作品が初めての振付ですか?

山下:その前に「アルティ・ブヨウ・フェスティバル」で、93年に短い20分の作品を出しているんですよ。出演は「モノクロームサーカス」なんですけれど、僕が振付・演出を担当した『ミュージック』という作品です。

それはどんな作品だったんですか。

山下:踊るのは、体を鍛えて、その中で自分の体を見つめるということでよかったんだけれども、ダンスの作品をつくるということが、正直よくわからなかったんですよ。それで、経験上、音楽をつくる過程っていうのは知っている。自分がバンドをやってきたときから培ってきたものがありますからね。なので、ダンス作品というのではなく、とりあえず音楽をつくるような感覚でダンス作品をつくろうって考えたんですね。タイトルもそのまま『ミュージック』にしたらかっこええんじゃないかな、と思って。そのとき実験したのは、楽器とか音の鳴るものをわーっと床に撒いて、それを手にとって即興で音を出しながら、何か動いたりしてもらう、その音の響きをもとに作品を構成してゆく、というやり方。舞台ではそんなに楽器は出てこなくて、音もほとんど鳴らないんですけれども。そういうやり方って、今まで続いている気がしますね。それが原点のような。

経験ということで言えば、無理矢理かも知れませんが、先日小さい頃ずっと囲碁をされていたということもお聞きして、ダンスの振付も論理とかそういった部分で共通するのかな、と思ったりしたのですが。

山下:それも関係するといえば、するかも知れないですね。でも囲碁っていうのは感覚のものなんですよ。ここに打ったら今度はこう、っていうのはあるかも知れないけれど、実はすごく感覚の陣取りゲームなんですよ。

そうか、空間を埋めていくゲームだ。

山下:そうそう。そういった配置という点では。すごく感覚的に、このへんにこう空間をとって攻めていくってところでは、振付と共通点はあるかも知れませんよ。

相手の裏もかきつつ。

山下:そうそう。

次に『詩の朗読』をつくられたのは?

山下:当時のパンフレットに書いたんだけど、練習をしていてふと、詩の朗読をしたいなと思ったのが始まりなんですよ。あんまり意味はないんですけれどもね。

特に、誰かの詩の朗読を聞いて面白かったとかいったことは。

山下:ないですね。あのときは京都の90年代前半なので、丁度「ダムタイプ」なんかに代表されるように、テクノロジーというのがパフォーマンスの領域で盛んだったんですね。それに対して詩の朗読っていうのは、パフォーマンスとしてはあまりなかったですね。そういったものは、90年代後半になっていっぱい出てきて、今だに続いているところはありますけれど。
 そういう意味では、あまのじゃく的なところもあるのかも知れないけれども、全くふつうにぱっと、詩の朗読がしてみたいなと思ったんですね。それも、そのままタイトルにしよう、と。
 毎週ダンサーに集まって詩を読んでもらって、それをじっくり観察しながらダンスを立ち上げてゆくという作業を、1年間ぐらい続けました。パフォーマーは、その日読みたい、好きなテクストを持って集まる。テクストは、詩ということでやってはいるんだけれども、あまりこだわらず、詩というものを広く捉えて、好きな曲を持ってくる人もいたり、その日誰かの誕生日だったらそのパーティーをみんなでするとか。そこから日常的な動作とか、誕生日のシーンなどをコラージュしてできたのが『詩の朗読』です。

パフォーマーは、詩を読むということがメインの演技になるわけですね。朗読の傍ら誰かがダンスをする、というのではなく。

山下:そうです。だから、『ミュージック』はまだダンスだったんだけど、-もちろん僕の心の中では『詩の朗読』もダンスですが-、『詩の朗読』をダンスって思っている人はあまりいなかったんじゃないですか。コーヒーを飲む、タバコに火をつける、そういった日常の動作を決めて、タイミングを割り振っていった作品なんで。今つくっている作品よりかなりいい加減でしたけれど、この本を読んでいるときに、こことここの人はどういう動作をしているっていうのを、その時の自分は、かなり細かくつくったつもりでいました。

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