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小粒のメセナ?個人の趣味?アートを支える多層なアクターに突撃


#5:(株)レイコフ×奥山泰徳

 

 
T−
やはり、改修後も、年代を感じさせるような箇所が上手く残されていたからか、全くアタラシイ場所でも、古びたビルという印象でもなく、どこか懐かしい場所という感じがしました。なんだか「味のある空間」ですよね。

K−
そう感じてもらえると嬉しいですね。順慶ビルは、船場にいくつか残る昭和38年に建てられたビルです。例えば、順慶ビルの斜向かいに立つ堺町倶楽部(AMBROSIA)ビルのように大正時代に建てられたビルが価値を見い出され、比較的再活用が進んでいるのに比べて、この時期の建築は未だに建築史的にも評価の対象にもなっていません。
でも、昭和30年代は完全に工業化する以前。手仕事的な感覚が残る風合いは、それ以降のものとは異なるんですよ。窓の構造などがそうですから、みてもらえればその時代らしい独特のデザインに気付いてもらえると思います。他にも、目線を変えるとかなり面白い建築がまだまだこのエリアには残っています。

T−
建築に関わり続けてこられた桑原さんとしては、実はそういったことを知らせたいとのねらいもあった。

K−
この雰囲気を分かってもらえる方というのも、入居したり出入りしていただきたい方でもあります。その価値観を自分でも発見してくれる確率が高い方というのが、アーティストやデザイナーだったりするのではないでしょうか。
今回のプロジェクトを通じて、私が思ったのはこのビルだけではなく、自分の周りの建物を見る目が変わればということです。
結局、街の全体のイメージを新しくしていくためには、私達だけがこの取組みを行っても限界があります。順慶ビルを見た方、イベントに興味を持った方がどんどん真似をしてくれるといいと思っています。そうすることで、点でしかなかったものがつながって雰囲気をつくり出していくはずですから。

T−
実際には、どのぐらいの入居があったのですか?

K−
約2週間のイベントで400名ほどの方が訪れました。アンケートの回収率も高く、みなさんの関心の高さに私達も驚いたほどです。
当日だけでも入居の希望の話しが多く、もうちょっと賃料を高めに設定してもよかったかなあと。
結局、所有する以前のこのビルの入居率は40%程度でしたが、奥山さんの最初の紹介で60%ほどになり、そして今回のイベントで80%を越えました。
また、現在順慶ビルのすぐ近くで同プロジェクトの第2弾が完成しつつあり、そちらへの問い合わせまであります。プロジェクトを行うにあたっての大前提「空室を埋める」目的はほぼ達成することができました。

T−
それはすごいですね。ただ、それだけの方が新しく入居されるとなるとビルに以前から入居されている方は環境の変化に戸惑われるのではないでしょうか?

K−
やはり騒がしくなるのは困るとの意見はあり、イベントの開催日もふつうの事務所として使用されている方に迷惑にならない時間帯を選びました。
その一方で、ビルの最上階にある小山隆治建築研究所さんなどは、分野が近いこともあり理解を示して、入居希望者の方の見学にも応じて下さいましたね。
こちら側としては将来的には、入居者同士がつながって仕事の取り引きが生まれたり、自主的に合同のイベントを開催したりということが始まればと考えています。

T−
場所を同じくしただけで、交流が生まれるのは難しいと思いますが。

K−
ですから、今後もこのプロジェクトに関しては全面的に奥山さんに前に出てもらえればと思っていますが、今回のような短期間で大掛かりなイベントを行うためではありません。
やはりすべてを用意するというのは時間も労力もかかりますから、実行力のある「やりたい」と思う人や、それぞれのお店が発信してもらえるように、奥山さんなどの身近で関わっておられる方が間に入って声を掛けて繋いでほしい。いずれにせよ、今後は催しを小さくても継続するために少額でも予算は持ち出しではなく、お店同士で協賛金を募ったりもしていかなくてはならないでしょう。

T−
まずは南船場プロジェクトの第一歩が踏み出されたわけですが、将来的に桑原さんたちがお考えになるように街にブランドが生まれ、賃料が上がるようになると今度はアーティストやデザイナーの方がより安い場所に移ってしまうのではないでしょうか?それがあまり早いサイクルだと街のイメージも定着せず、ただ移り変わっていくよう思えます。
例えば、アーティストが住むようになって街が変化したニューヨークのソーホーのように、街のイメージを刷新した当人たちが住みづらくなっていくとか。

K−
確かに不動産には値段が高低する宿命があります。でも、南船場ではそういった極端な地価の値上がりは起らないでしょうね。現在は、関西はだいたい地価の安定期にありますし、特にこのエリア内には地場の顏ともいえる大きな企業さんが場所を持っておられます。
このエリアも3〜5年のスパンで変化が表面化するだろうと予想はしていますが、メインの場所でないために劇的なものではないと思います。

T−
あとは、伝統的な価値を守っておられる「顏」の方とのバランスをどのように図るかというところでしょうか?

K−
奥山さんのように、新しい感覚をもちながら、街の昔ながらの様子に愛着がある人にかんでもらうことが対外的(ビルの住居者同士以外)にも重要でしょうね。こういった方々とエリアエリアでつながっていくことも、点としてのビルの次、つまり街全体の雰囲気づくりに関わると思っています。
いずれにせよ私達が提案するリノベーション、再生は全く新しいものを行っていくのではないんですね。
街にもともとある建築を使って、アーティストやデザイナーは安価に制作場所を確保することができ、街の雰囲気を残しながら人の流れが生まれ、投資家やビルの所有者はそれによって利潤を得ることができる。だからその意味でこのプロジェクトは、エリアに関わる方の誰もが損はしない方法だといえます。
今回の順慶ビルもそうでしたが、リノベーションは建物の一部を解体してみてはじめて構造や配線の状態がわかるということも少なくなく、 新しい建物をたてるよりも手間のかかる作業です。
私は、その制約の多さをかいくぐりながら、街のコンテクストを読み解き、価値を刷新していくかというところにある面白さが伝わっていけばと思っています。

T−
だれもが損をしない…。3〜5年後に南船場独自の活動が生まれてくることを楽しみにしながら、今後も注目していきたいと思います。手始めに、桑原さんが講師の「昭和30年代建築遊覧」なんて街歩きがあれば参加したいです。今日はありがとうございました。

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